米アーカンソー大学が、国の支援を受け、SiC専用の研究/製造センターの建設に着手した。次世代パワー半導体として期待されるSiCパワーデバイスの国内生産能力と開発能力の強化を狙う。
米アーカンソー大学(University of Arkansas)は、米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)からの1800万米ドルの資金提供と、アメリカ陸軍研究所(ARL:Army Research Laboratory)からの追加支援を受け、国立SiC(炭化ケイ素)研究/製造センターの建設に着手した。SiCは、高温環境において優れた性能を発揮する強力な半導体であり、軍事用機器や一般的な電子機器などのさまざまな用途への可能性を秘めている。
今回のプロジェクトを率いるAlan Mantooth特別教授は、「MUSiC(Multi-User SiC)の第1段階は、既存のクリーンルームラボを改築し、2024年に始動する予定だ。2025年1月には新しいビルが完成し、MUSiC研究/製造施設(MUSiC Research and Fabrication Facility)が本格的にオープンすることになる」と述べている。
このMUSiC研究/製造施設は、SiCデバイスの国内生産の不足に対応する予定だ。オープンアクセスが可能なこの新施設は、こうした種類の施設としては米国で初めて、外部の工学研究者たちに試作やデモ、デバイス設計などのさまざまなチャンスを提供することになる。
NSFからの提供資金は、インフラや装置、技術などの導入の他、スタッフや研究者のサポートにも充てられる予定だ。アーカンソー大学の数十年に及ぶSiC研究の実績と、最先端の設備を組み合わせることにより、極端な温度下でも機能し、さらなる軽量化と高速化、エネルギー高効率化を実現するエレクトロニクスシステムに向けた、優れたSiCデバイスの生産実現を目指す。
同施設の潜在用途は、軍事/産業システムから、自動車や輸送、建設機器、地熱/宇宙探査などに向けた電子機器に至るまで幅広い。研究を推進していくことの他にも、次世代の半導体研究者やエンジニアの育成においても重要な役割を担い、学生たちに科学技術のニーズの高い分野を経験させることができる。
プロジェクトの共同主任研究員には、物理学の特別教授であるGreg Salamo氏や、電気工学部准教授のZhong Chen氏、電気工学部のビジネス/オペレーションズマネジャーであるShannon Davis氏、米テキサス州ラボック(Lubbock)に拠点を置くX-FABでかつてSiC技術部門担当ディレクターを務めた経歴を持つJohn Ransom氏などが名を連ねる。Ransom氏は、MUSiC研究/製造施設の代表を務める予定だという。
同施設の設立により、米国は、最先端のSiC半導体の設計/製造を推進することができるようになるだろう。Mantooth氏は、米国EE Timesのインタビューの中で、「アーカンソー大学に施設を設立することで、現在、米国の半導体製造に不足している点について、以下のような方法で対応していきたい」と述べる。
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