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» 2023年08月28日 12時30分 公開

ArmのIPOが直面する課題RISC-Vの台頭やArm Chinaの存在(1/2 ページ)

Armが米NASDAQ市場へのIPO(新規株式公開)申請を発表した。2023年における最大規模のIPOになるといわれる一方で、今回のIPOは大きな課題に直面していると見るアナリストやソフトバンク関係者も存在する。

[Alan PattersonEE Times]

 Armは早ければ2023年9月に、米NASDAQ市場でのIPO(新規株式公開)を予定している。アナリストや、ソフトバンクに近い関係者が米EE Timesに語ったところによると、Armに対する過大評価や、成長予測の不透明さなど、大きな課題に直面しているという。

 ソフトバンクは2022年2月、ArmをNVIDIAに400億米ドルで売却する計画を断念した。米国や欧州の規制当局が独占禁止法に抵触する懸念を指摘したからだ。そのためソフトバンクは、ArmのIPOに方針を切り替えた。Reuters(ロイター通信)によると、Armは最大700億米ドルの企業評価額を目指すとする。またソフトバンクはArmの株式の約10%のみを上場させるとも報じている。それが実現すれば、2023年における世界最大規模のIPOとなる一方、ソフトバンクは引き続き、Armの企業支配権を維持できることになる。

2022年2月に行われた決算説明会でArm売却断念の経緯を語る孫正義氏(YouTubeでのオンライン説明会をEE Times Japanがキャプチャー) 2022年2月に行われた決算説明会でArm売却断念の経緯を語る孫正義氏(YouTubeでのオンライン説明会をEE Times Japanがキャプチャー)

 Armに近しい人物は、匿名を条件にEE Timesの取材に応じ、「ソフトバンクは、経営再建のための資金を切実に必要としている。同社は、WeWorkやKaterra、Uberなどのさまざまな企業に“破滅的な投資”を行ってきた。Armは、売却によって利益を得ることが可能な数少ないサクセスストーリーの一つとなった。NVIDIAへの売却が失敗に終わった今、ソフトバンクの創設者であり会長兼CEO(最高経営責任者)を務める孫正義氏にとって、IPOは残された最大の希望だ。同氏は、滑稽なほどに高額な評価額を期待している」と述べている。

 この人物はさらに、「AppleやAmazon、Samsung ElectronicsがArmに出資する可能性があるが、これらの企業は既にArmとの間でかなりの取引きがあるため、このような高い潜在評価額でArmに投資するメリットがあるのかどうかは不明だ。ソフトバンクは、これらの企業を一部引き込むことで、IPO価格の基準値を提供したいと考えている。Armは何らかの形で、われわれの寿命よりも長く生き残っていくだろう。しかし、成長を遂げて600億米ドルの価値を持つまでになるのだろうか。とてつもなく非現実的な盲信だ」と述べる。

 Armの大手顧客は、AppleやSamsung Electronicsの他、中国の小規模な競合メーカーが、世界のほぼ全てのスマートフォンを製造するために使っているArmの半導体設計の所有権を握ることで、ライバル企業が競争上の優位性を獲得するのを阻止したいと考えるだろう。現在もさらに多くのメーカーが、センサーやスパコンなどでArm設計を使用している。

障壁になるのは「Arm China」か

 Albright Stonebridge Groupでグローバル規模の技術企業のアドバイザーを務めているPaul Triolo氏は、「世界スマートフォン売上高が過去2年間にわたり低迷したことで、Armの短期的な成長見通しにも打撃が及んでいる。Armは現在、中国においてさらに多くの懸念に直面している。Arm Chinaが数年前、親会社から独立すると同時に、中国国内のArmのライバル企業各社が、RISC-Vやその他の代替設計アーキテクチャを採用するようになったのだ」と述べている。

 「IPOを遅らせている主な原因は、このArm Chinaの複雑な問題である。Arm Chinaとその反逆的なCEO(最高経営責任者)であるAllen Wu氏に関連する問題を解決することは、ソフトバンクとArmが当初思っていたよりもはるかに複雑化していることが分かる」(Triolo氏)

 ArmのIPO申請書類によると、同社の売上高全体の4分の1を中国が占めているという。

 Armに近い関係者は2023年8月、「Arm ChinaはArmとソフトバンクにとって、絶対的な災難だ。ソフトバンクは2018年に、同社の株式の51%を、数人の中国投資家にかなり控えめな価格で売却した。当初は合弁事業で、Armは取締役会のメンバーだった。しかし、管理権やガバナンスをめぐり、かなりの緊迫感が漂っていた。どういうわけか、Armは途中でコントロールを失ってしまったようだ」と述べる。

 Armは、2023年8月に公開したIPO目論見書に、「Armは、収益源として、また中国市場へのパイプ役としてArm Chinaに依存しているにもかかわらず、Arm Chinaは独立運営されている」と記載している。

 さらにArmは、目論見書の中で、「もしArmが、Arm Chinaとの間で商業関係を維持できない場合、中国市場へのアクセスは著しく低下し、事業や成長予測にも悪影響が及ぶ可能性がある」と述べる。

 SemiAnalysisのチーフアナリストであるDylan Patel氏は、EE Timesの取材の中で、「Armが株式公開企業になれば、利益を最優先して価格を上げ、研究開発への投資を削減するのではないかという懸念がある。Arm Chinaは厄介な存在だ。Armは事実上諦めて、今後主導権を取り戻すことは不可能だと認めている」と述べている。

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