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史上最悪レベルの半導体不況に回復の兆し、生成AIという新たな“けん引役”も湯之上隆のナノフォーカス(65)(1/5 ページ)

“コロナ特需”から一転、かつてないレベルの不況に突入した半導体業界だが、どうやら回復の兆しが見えてきたようだ。本稿では、半導体市場の統計や、大手メーカーの決算報告を基に、半導体市場の回復時期を探る。さらに、業界の新たなけん引役となりそうな生成AIについても言及する。

» 2023年09月08日 11時30分 公開
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 世界半導体市場統計(WSTS)データや半導体メーカー各社の業績には、大不況が回復に向かう兆しが見える。ただし、本格的な回復は2024年になりそうである。

 そして、不況が回復した後、世界半導体産業をけん引するのは、ChatGPTなどの生成AI(人工知能)に使われるAI半導体になるだろう。その結果、最先端半導体の主役は、米Appleの「iPhone」用プロセッサから、米NVIDIAのGPUなどのAI半導体に移行すると予測する。

回復の兆しが見えた世界半導体市場

 2020年にコロナのパンデミックが発生し、世界的に、リモートワーク、オンライン学習、ネットショッピングが爆発的に普及した。すると、2021年に半導体不足となり、クルマをはじめ各種の電子機器が生産できなくなった。

 それをきっかけとして、世界的に、空前絶後の半導体ブームが到来した。そして、米中の半導体摩擦と台湾有事への懸念もあって、世界の各国/地域が競って半導体製造能力を強化し始めた。その結果、2022年以降、半導体は供給過剰となり、価格が大暴落し、大不況に突入していった。

 この史上最悪レベルの半導体不況は、一体いつ明けるのだろうかと思っていたところ、やっと、回復する兆しが見え始めた。

 図1に、2023年6月までの種類別半導体の出荷額(3カ月移動平均)を示す。ここで、Mos Microには、米Intelなどが生産するプロセッサ(MPU)やルネサス エレクトロニクスなどが生産するマイコン(MCU)が含まれる。Mos MemoryのほとんどがDRAMとNAND型フラッシュメモリである。Logicには、スマホ用プロセッサやNVIDIAのGPUなどが含まれる。また、グラフを3カ月移動平均で描いたのは、毎月の出荷額が暴れるので、それを平準化するためである。

図1 種類別半導体の3カ月移動平均の出荷額(〜2023年6月) 図1 種類別半導体の3カ月移動平均の出荷額(〜2023年6月)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 あらためて図1を見ると、Mos Micro、Mos Memory、Logicが2023年4〜5月で底を打って回復に向かっていることが分かる。また、Analogは、出荷額の低下が緩やかになったように見える。

3カ月移動平均の前年成長率

 次に、種類別半導体の出荷額(3カ月移動平均)の前年成長率を図2に示す。この中で、特にMos Memoryのアップダウンが激しいことが見て取れる。そして、2023年4月の△56.3%は、2019年のメモリ不況(△39.2%)、2008年のリーマン・ショック後(△41.5%)、1995年のWindows95発売後(△54.2%)を超えるひどさであり、2001年のITバブル崩壊後の△66.6%に次ぐ、史上2番目の落ち込みとなった。

図2 種類別半導体の出荷額(3カ月移動平均)の前年成長率(〜2023年6月) 図2 種類別半導体の出荷額(3カ月移動平均)の前年成長率(〜2023年6月)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 ここで、2016年以降の成長率を拡大してみると、Mos MicroとMos Memoryは2023年4月で底を打ち、LogicとAnalogは成長率の低下が緩やかになっていることが分かる(図3)。従って、各種の半導体は回復に向かっていると言えそうだ。なお、3カ月移動平均の前年成長率は、次式で計算した(図4)。

図3 種類別半導体の出荷額(3カ月移動平均)の前年成長率 図3 種類別半導体の出荷額(3カ月移動平均)の前年成長率(2016年〜2023年6月を拡大したもの)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成
図4 3カ月移動平均の前年成長率の計算式 図4 3カ月移動平均の前年成長率の計算式[クリックで拡大]

 しかし、各種の半導体がプラス成長に浮上するには相当な時間がかかりそうである。図3の成長率の傾向を見ると、ことし(2023年)中にプラスに転じることは難しく、よって本格回復は来年2024年前半以降になると思われる。やはり、ことしいっぱいは我慢の年になるだろう。

 このように、世界半導体市場のデータからは、不況回復の兆しが見て取れる。同じように、半導体メーカー各社の業績からも、その傾向がうかがえる。以下では、米Intel、米AMD、韓国Samsung Electronics(以下、Samsung)とSK hynixの2023年第2四半期(Q2)までの売上高および営業利益を見てみよう。

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