理化学研究所(理研)と東京大学、日本原子力研究開発機構の研究グループは、超音波を用い「反強磁性体」の性質を高い精度で測定できることを実証した。反強磁性材料の新たな物性測定手法を提供することで、高速磁気メモリなどの開発が進むとみられる。
理化学研究所(理研)と東京大学、日本原子力研究開発機構の研究グループは2023年11月、超音波を用いて「反強磁性体」の性質を高い精度で測定できることを実証したと発表した。反強磁性材料の新たな物性測定手法を提供することで、高速磁気メモリなどの開発が進むとみられる。
反強磁性体は、全体の磁化を打ち消すように、N極とS極の方向が互い違いに整列した磁石である。強磁性体に比べ狭いエリアに多くのセルを敷き詰めることができるため、高い記録密度を実現できるという。しかも、強磁性体に比べ「硬い」ことから、磁化を速く振動させれば情報を高速に書き込むことができる。ただ、全体の磁化が「ゼロ」であるため、磁場を用いて材料の性質を確認することが難しかった。
そこで今回、超音波を反磁性体に照射し、透過してくる信号を測定することで、磁気的な性質を調べることにした。実験では、超音波として表面音波を用いた。透明なニオブ酸リチウム基板上に設けたすだれ状の電極で表面音波を発生させ、その透過波を電気信号として検出できるようにした。
電極間には反強磁性材料である「三塩化クロム」の剥片を置き、ここを通過する表面音波の透過率を測定することで、試料の磁気的性質を調べた。超音波の周波数を変化させていけば、ある特定の周波数で共鳴による増幅効果が現れる。今回は、超音波の周波数を固定した状態で磁場をチューニングし、共鳴が起こる条件を決めた。
実験では、基板面内で磁場を0mTから50mTの範囲で全方位変化させ、超音波透過率の磁場依存性を調べた。この結果、微弱な超音波に対して反強磁性共鳴が起き、透過率が大きく変化していることが分かった。測定したデータを理論モデルと比べれば、三塩化クロムの磁気的性質に関わるパラメータを定量的に算出できるという。
今回は、三塩化クロム膜の共鳴パターンについて、温度上昇による変化も調べた。この結果から、温度が低いと8の字パターンで分布する。温度を上昇させていくと徐々に変形し、高温側では四方に切れ目を持った円形の分布となった。最高温(−259℃)では反強磁性磁石としての性質が失われることを確認した。
今回の研究成果は、理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子ナノ磁性研究チームのトマス・リヨンス学振特別研究員(研究当時)、ホルヘ・プエブラ研究員、東京大学物性研究所の大谷義近教授(理研創発物性科学研究センター量子ナノ磁性研究チームチームリーダー)および、日本原子力研究開発機構先端基礎研究センターの山本慧研究副主幹(科学技術振興機構さきがけ研究者、理研開拓研究本部柚木計算物性物理研究室客員研究員)らによるものである。
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