経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 ソフトウェア・情報サービス戦略室 企画官の小川宏高氏は、「EdgeTech+ 2023」のセミナーに登壇し、生成AIを中心に、日本の半導体・デジタル産業戦略について語った。
経済産業省(経産省) 商務情報政策局 情報産業課 ソフトウェア・情報サービス戦略室 企画官の小川宏高氏は、「EdgeTech+ 2023」(2023年11月15〜17日、パシフィコ横浜)にて、「半導体・デジタル産業の現状と今後」と題した基調講演に登壇し、生成AIを中心に、政府の半導体・デジタル戦略を語った。
小川氏は「昨今、生成AI(人工知能)の普及により、従来のAIでは不可能だった、さまざまなクリエイティブな業務を人間に代わって行える可能性が高くなった。日本でも、ChatGPTのAPI(Application Programming Interface)公開後、コンテンツ生成や要約サービス、新薬/新材料の開発など、生成AIを活用したサービスが急増している」とし、生成AIに適したコア技術として「基盤モデル」を取り上げた。
基盤モデルとは、大量かつ多様なデータで訓練され、多様な下流タスクに適応できるモデルだ。基盤モデルを用いることで、比較的少量の追加的な教師データから、性能の高い個別タスク向けAIを作り出すことができる。また、膨大なテキストデータを事前に学習した基盤モデルである「大規模言語モデル(LLM)」は、文章生成や機械翻訳など、さまざまな言語タスクに対応可能だ。LLMには、2023年にOpenAIが発表した「GPT-4」の他、2021年にGoogle Brainが発表した「Switch Transformer」、2022年にLINE/NAVERが発表した「Hyper CLOVA」などがある。
小川氏は、国内の基盤モデル開発について「現在、基盤モデルに学習させるためのデータ調査を行っている段階だ。2023年内をメドに、どんな分野のデータが、生成AI開発者やユーザーにとって有益なのかを特定する。また、国内企業に対し、基盤モデルの自社開発に関する意識調査を実施したところ、ベンチャー企業を含む29社から前向きな回答があった」と述べた。また、国内企業/団体への支援については「当該分野は、開発すべき基盤モデルを特定することが難しいため、しばらくは幅広い支援を行う。1サイクル6カ月(全3サイクル)を目安に支援し、結果を踏まえた上で、サイクルごとに有力な取り組みを絞り込んでいく」と語った。
経産省は2023年9月22日、基盤モデル開発を行う企業を支援すべく、公募に向けた事前調査を開始(参考)。同年11月10日には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」として公募を開始している。
生成AIの開発に必要なGPUの確保について、小川氏は「経産省は、国内企業/団体がGPUを必要とした際に支援できるように、NVIDIAに対して、あくまでも強制力を持たない形でGPUの確保について相談している」と説明した。また、米国企業との連携について、経済産業大臣の西村康稔氏が2023年11月13日(米国時間)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)への参加に先立ち、NVIDIAやApple、AMD、Microsoft、Western Digitalなど、米国のAI/半導体企業7社の幹部と意見交換会を実施したことに言及。「先端半導体の国内生産/供給の安定化に向けた日米連携強化の狙いがある」と述べた。
小川氏は、デジタル社会実現に伴う“副作用”について「デジタル技術の発展により社会/経済が大きく発展した反面、世界のエネルギー消費量が急増している。世界のインターネット通信量は、2030年には2022年比で2倍、IT分野の電力消費は同1.5倍に増加する見込みだ。この状況に拍車を掛けているのが生成AIだ。一方で、生成AIの普及により、AI開発に必要な計算量が急増し、3〜4カ月で倍増していくといわれている。学習に必要な計算量の急増に伴い、消費電力も急速に増加している」と説明し、「気候変動などの環境問題が国際的に取り上げられる中、今後も持続的な成長と脱炭素化を両立するためには、半導体技術の進歩が必要不可欠だ」と語った。
政府の発表によると、「令和6年度(2024年度)概算要求におけるAI関連予算」の合計額は、前年比503億円増の約1640億円に上った。うち、生成AI関連の要求は約728億円で、主な施策として、国内外で生じるAI活用によるリスクへの対応や、基盤モデルや次世代半導体開発などを含むAI開発力の強化、医療/教育/インフラなどでのAIの利用促進などを想定している。
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