富士通が、半導体パッケージ基板を手掛ける子会社の新光電気工業を、政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)などに売却すると発表した。買収総額は約6850億円に上る見通し。
富士通は2023年12月12日、半導体パッケージ基板を手掛ける子会社の新光電気工業(以下、新光電気)を、政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)などに売却すると発表した。JICは、大日本印刷(以下、DNP)、三井化学と組み、TOB(株式公開買い付け)などを通じて、新光電気の全株式の取得、非上場化を目指す。JICは、「(買収によって)新光電気がこれまで培った多様な半導体実装技術をもとに、チップレット技術や光電融合技術といった先進半導体パッケージ分野の事業化を強力に支援していくことができる」と述べている。
新光電気は、PCやサーバ向けのCPUをはじめとした高性能半導体に用いられる主力のフリップチップパッケージをはじめ、プラスチックBGA(Ball Grid Array)基板、リードフレームなどでそれぞれ高いシェアを有する主要半導体パッケージ基板メーカーだ。また、半導体製造装置用セラミック静電チャックや、IC組み立てなども手掛けている。同社は東証プライム市場に上場していて、現在の時価総額は約7500億円。発行済み株式の50.02%を親会社の富士通が所有している。
新光電気の2022年度の連結売上高は前年度比5.3%増の2863億円で、売上高の27.3%がIntel向け、12.6%がAMD向け、11.3%がLam Research向けとなっている。なお、2023年度上期の連結売上高は前年同期比33.1%減の1051億円と、足元では半導体市況の低迷の影響を受けていて、通期でも前年度比19.7%減のマイナス成長を見込んでいる。
ただ、同社はイビデンとともに、「2社(新光電気とイビデン)がなければサーバ用プロセッサができない」とも評される、市場で突出した技術を有する企業だ。また、5G(第5世代移動通信)の普及やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)の活用拡大などから半導体需要は中長期的に拡大する見込みであり、高機能化/高速化や省電力のニーズに対応する先端パッケージ基板の市場も大きく成長することが期待されている。新光電気は、こうした成長市場に向けて設備投資、技術開発を強化している。
新光電気は、2022〜2025年度までに、フリップチップパッケージの生産体制強化に1400億円を投資する方針で、2024年度には新工場である千曲工場(長野県千曲市)の操業を開始し、フリップチップパッケージの生産能力を従来比で約50%増に強化する計画だ。さらに、2023年6月には、中長期的に大きな成長が予想されるハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)市場への対応を目的に、「i-THOP(integrated Thin film High density Organic Package:アイソップ)」をはじめとする次世代フリップチップパッケージの量産に向け、千曲工場に別の新棟を建設する計画も発表している。i-THOPは、同社が2.3次元パッケージ用として開発している独自の超高密度有機基板だ。
このほか、新井工場(新潟県妙高市)では、半導体メモリの高速化/大容量化に対応する、プラスチックBGA基板の生産能力増強に向けた新棟建設計画に着手。半導体製造装置用のセラミック静電チャックについても、高丘工場(長野県中野市)での新棟建設および生産設備の導入によって、量産体制の拡充を進めている。
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