半導体製造装置と材料の分野において、日本は非常に高いシェアを持っている。これはなぜなのか。欧米メーカーのシェアが高い分野と比較し、分析してみると、興味深い結果が得られた。
筆者は2021年6月1日、衆議院の科学技術特別委員会に半導体の専門家として参考人招致され、その意見陳述の中で「日本には特徴的にシェアが高い半導体製造装置と材料がある」ことを論じた(参考動画:「衆議院 2021年06月01日 科学技術特別委員会 #04 湯之上隆」)。
その20日後に、SEMICON JapanのSemi Technology Symposiumのプログラム委員を務めている知人から、「あの衆議院の意見陳述の続きをSEMICON Japanで講演して欲しい」という依頼を受けた。最初は断るつもりだったのだが、その相手に連絡がつかず、どんどん話が進んでしまったため、引き受けざるを得ない状況になってしまった。
という事情で、12月17日(金)に、「SEMICON JAPAN 2021 Hybrid」のSemi Technology Symposiumの先端材料・構造・分析セッションで、「日本の装置と材料の競争力とその源泉」という題目で講演することになった(参考:SEMICON JAPAN公式サイト)。ただし、筆者は前工程が専門で、後工程やパッケージに土地勘がない。そこで、後工程/パッケージについては、Intelで約30年間、その分野に従事された亀和田忠司氏に依頼し、共同発表することにした(図1)。
筆者と亀和田氏は、この講演に関するフレームワークを決め、8月から約4カ月間かけて、この講演の準備を行った。そのフレームワークは、以下の通りである。
本稿では、筆者(湯之上)と亀和田氏の共著により、上記の概要を紹介する。4カ月をかけた上記の調査と研究により、非常に面白い結論を導くことができた。その結論を一言でいうと、日本人と欧米人の発想や行動様式が異なることが、装置や材料のシェアの高低に大きく関係しているということである。
以下では、まず、筆者の分担である前工程について、論じたい。
前工程は500〜1000工程以上にもなるが、そのプロセスはシンプルである(図2)。直径200〜300mmのシリコンウエハを基板に使って、洗浄→成膜→リソグラフィでパターニング→エッチング→アッシングや洗浄→検査という、決まりきった工程を30〜50回以上繰り返す(これ以外にも、イオン注入、熱処理、CMPなどの工程がある)。
この前工程により、シリコンウエハ上にトランジスタ、キャパシタ、配線などの3次元の構造物が形成される。そして、シリコンウエハ上に、約1000チップが同時につくり込まれる。
この前工程に使われる主な製造装置の企業別シェアを図3に示す。日本のシェアが高いのは、コータ・デベロッパ(92%)、縦型拡散炉ともいわれる熱処理装置(93%)、枚葉式洗浄装置(63%)とバッチ式洗浄装置(86%)、測長SEM(80%)などである。これに加えて、CMP装置はトップシェアではないが、荏原製作所がロジック半導体に大きなシェア(約30%)を持っているため、これもシェアが高い装置にカウントする。
一方、露光装置、ドライエッチング装置、CVDやスパッタなどの成膜装置、各種検査装置の日本のシェアは低い。しかし、これらの装置には、多くの日本製の部品や設備などが使われている。その中でも特に、石英部品やセラミックス部品は、日本製が圧倒的に多い。
次に、前工程に使われる主な材料の企業別シェアを図4に示す。シリコンウエハ、各種レジスト、各種CMPスラリ、各種の高純度薬液など、日本のシェアが高い材料が非常に多いことが分かる。日本の材料メーカー各社は、装置メーカー以上に、強力な存在感を示していると言える。
このように、日本には特徴的にシェアが高い装置があり、シェアが低い装置でも部品や設備には日本製が多い。また、ほとんどの材料について、日本のシェアが高い。これらについて、日本のシェアが高いもの(低いもの)について、以下で分類を行う。
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