東北大学では、スピントロニクス半導体の研究が活発に行われている。ロジックLSIの消費電力を100分の1以下に削減できるスピントロニクス半導体は、さまざまなシステムの低消費電力化に大きく貢献すると期待されている。同大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES) センター長 兼 スピントロニクス学術連携研究教育センター 部門長の遠藤哲郎教授に、スピントロニクス半導体の特長や活用について聞いた。
東北大学は、2011年に現総長(当時、教授)の大野英男氏が「希薄磁性半導体における強磁性の特性と制御に関する研究」で、「トムソン・ロイター引用栄誉賞(ノーベル賞有力候補)」を受賞するなど、磁性(スピントロニクス)半導体の研究が活発だ。
今回、東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES:Center for Innovative Integrated Electronics Systems) センター長 兼 スピントロニクス学術連携研究教育センター 部門長の遠藤哲郎教授に、スピントロニクス半導体の特長や活用事例について聞いた。
――スピントロニクス半導体とは、どういった技術なのでしょうか。
遠藤哲郎教授 スピントロニクスは、スピンとエレクトロニクスを組み合わせた技術だ。エレクトロニクスでは、電子の電荷の有無で情報を記憶するのに対し、スピントロニクスでは、電子のスピン(回転)により生じる磁性の向きで情報を記憶する。特に、MRAM(磁気抵抗メモリ)での実用化が進んでいる。
MRAMは、メモリセルに、2つの磁性体層の間に絶縁体層を挟み込んだ構造を持つ「磁気トンネル接合素子(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)」を用いる。2つの磁性体の磁性の向きがそろっている(平行)場合を「0」、逆向き(反平行)な場合を「1」として情報を記憶する。
――スピントロニクス半導体の最大の特長は何でしょうか。
遠藤教授 スピントロニクス半導体の最大の特長は、ロジックLSIの消費電力を、製品ベースで100分の1以下に低減できることだ。AIチップやSTT(スピン注入磁化反転)-MRAMなどに応用したときの実証実験では、いずれもCMOS技術のみを用いた場合に比べて、消費電力を97〜99.9%削減できた。
現在のPCは、電源を落とすとCPUやメモリのデータが消失するため、動作していない時の待機電力が発生している。しかし、スピントロニクス半導体では、電源を切っても磁性の向きが変わらず、記憶情報も保持されるため、待機電力が不要だ。それ故、ここまでの消費電力削減が可能になる。
――スピントロニクス半導体の重要性について教えてください。
遠藤教授 現在は高度情報化社会であり、テクノロジーの発展とともに、半導体の使用量や消費電力が年々増加している。この先、高度情報化社会とカーボンニュートラルを両立するためには、半導体分野の技術革新が必要不可欠だ。
2010年以降、EV(電気自動車)やAI(人工知能)、ビッグデータ、生成AIといった新しい市場の誕生により、必要情報処理/データ量は急増している。このような状況の中では、既存の技術を発展させて消費電力を10%、20%改善するだけでは焼け石に水だ。消費電力を100分の1、1000分の1にできるような革新的な技術を生み出さなければ、住みやすい地球を維持することはできない。この課題を解決する技術がスピントロニクス半導体だ。
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