AI(人工知能)チップを手掛ける米スタートアップのSambaNova Systemsは2023年12月、東京 大手町にオフィスを開設した。官公庁や金融業をターゲットとする。SambaNovaのCEO(最高経営責任者)であるRodrigo Liang氏は、「AIを“資産”として持つことが、企業の価値向上につながる」と強調した。
AI(人工知能)チップを手掛ける米スタートアップのSambaNova Systems(以下、SambaNova)は2023年12月22日、都内で記者説明会を開催し、同年11月1日に東京オフィスを開設したことを明らかにした。オフィスは東京都千代田区の大手町ビル内にあり、現在の従業員数は約10人。今後、エンジニアを増やしていく予定だ。
SambaNovaのアジア太平洋地域(APAC)ゼネラルマネージャーを務める鯨岡俊則氏は「大手町エリアは“AIスタートアップの聖地”といわれている。交通の便もよく、われわれがターゲットとしている官公庁や、金融関係企業の拠点も多い」と述べる。「シンガポールからも誘致を受けたが、個々のAI関連プロジェクトの規模や、AI政策の規模などを考慮し、東京を選んだ。将来的に東京オフィスはAPACの拠点としても使いたい。さらに、日本の顧客と協力して、人材育成にも協力したい」(同氏)
SambaNovaは、米スタンフォード大学出身の3人によって、2017年に設立された。AIチップから事前学習済みの基盤モデルまでを統合プラットフォームとして提供している。ソフトバンクやIntelの投資部門であるIntel Capital、Micron Technology、SK hynixなど、半導体メーカーを含む大手企業が長期にわたり投資をしていて、これまでの資金調達額は10億米ドルを超える。
SambaNovaの共同創業者でCEO(最高経営責任者)を務めるRodrigo Liang氏は、「AIの活用は、企業の成長戦略にとって重要な要素になっている」と述べ、AIを単なるツールではなく、「資産」として持つことで、企業価値の継続的な向上につなげられると強調した。
そうした「資産」となるAIを、Liang氏は「企業グレードのAI」と呼ぶ。同氏は企業グレードのAIには重要な要素が3つあると述べる。まずは、1つの大規模なモデルではなく、多数のエキスパートシステムで構成されていること。2つ目は、オープンソースを活用したモデルであること。3つ目が、秘匿性の高いデータで学習したモデルであることだ。「公開データのみで学習しては、十分な付加価値を得られない」とLiang氏は述べる。
1つ目の、多数のエキスパートシステムで基盤モデルを構成する考え方を、SambaNovaは「CoE(Composition of Experts)」と呼ぶ。「企業には数多くの部門があり、各部門に必要なAIは異なる。必要なAIを全て考慮して1つの大規模モデルを構築するのは、膨大な時間とコストが掛かる」(Liang氏)。SambaNovaは、Metaの「LLaMA2」のようなオープンソースのLLM(大規模言語モデル)を使って、各部門が必要としている機能に合わせてファインチューニングを行うことで、エキスパートシステムを増やしていく。一つ一つのモデルを小規模にすることで、学習と推論に掛かる時間とコストを削減することが狙いだ。「現在、ディープラーニングに掛かるコストは20%が学習で、80%が推論だ。SambaNovaのCoEにより、推論のコストを約10分の1に低減できるケースもある」とLiang氏は語る。
併せてSambaNovaは、同社のハード/ソフトを統合したラック型システム「SambaNova DataScale」が、ソフトバンクの生成AI開発向け計算基盤の一部に採用されたことを発表した。ソフトバンクは、SambaNovaへの投資を主導してきた企業でもある。鯨岡氏は、「第3世代のSambaNova DataScaleが採用される。(仕様や構成の)詳細はこれから決めていくが、当社にとってはアジアで最大のシステムが導入されることになるので、楽しみにしているプロジェクトだ」と語った。
なお、SambaNova DataScaleの国内導入は、AIを活用した製品/システムの開発事業を手掛けるCotofureが支援を担う。CotofureはSambaNovaとリセラー契約を締結していて、SambaNova DataScaleの国内販売を開始している。鯨岡氏は「Cotofureは医療分野にもコネクションがあるので、SambaNova DataScaleの医療分野での活用も期待している」と述べた。
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