半導体市場の動向に異変が起きている。PC/スマホ向け半導体が回復しつつある一方で、これまで好調だった自動車向け半導体需要が減速し始めているのだ。なぜ自動車向け半導体の需要が減速し、今後どうなっていくのか。
半導体市場の動向に異変が起きている。全体的には回復基調なのだが、これまで好調だった車載半導体やパワー半導体の動向が減速し始めているのだ。日系半導体メーカーの多くは、車載および産業機器向けの比率が高く、それらの分野が好調だった今までは業績が堅調に推移していた。ところが現在、好調だった車載分野と不調だったスマホ/PC分野の波が入れ替わろうとしている。果たしてこの先はどうなるのだろうか。
世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2024年1月の世界半導体市場は前年同月比15.5%増で、2023年12月の同19.0%増に比べて伸長率は若干低めではあったが、3カ月連続で2桁のプラス成長を記録した。
グラフを見ても分かる通り、メモリ市場が急速に回復している。2024年1月の実績は前年同月比88.8%増、2023年12月の同63.0%を大幅に上回っており、成長率だけを見れば前回のピーク時をも上回る勢いである。ただしこれは、1年前のメモリ市況が悪すぎたため(同58.6%減)、その反動で成長率が高くなっている。スマホやPCの在庫水準が下がったことでメモリ需要は増えているものの、スマホもPCも需要が活性化している状態ではない。各メモリメーカーにしてみれば、市況はまだ完全に回復したとはいえず、DRAMもNAND型フラッシュメモリも生産はフル稼働には至っていない。もしフル稼働状態であれば、今度こそキオクシアの上場が検討されているはずだが、まだその話は具体化していないようだ。キオクシアに限らず、メモリ業界ではこれからの本格的な市況回復に期待したいところだろう。
いずれにしても、スマホやPCといった主要アプリケーション向けの半導体需要が回復基調にあることは間違いなく、それがメモリ市況の回復要因になっている。
メモリ以外の半導体の2024年1月における対前年同月成長率は5.5%増。2024年12月の同9.5%増から下がっているが、問題はその中身である。MPU、アプリケーションプロセッサなど、PCやスマホ向けのデバイス市場は好調に推移しているが、車載半導体、パワー半導体など、今まで好調だったデバイス市場が落ち込んでいるのだ。
もう少し詳細に見てみよう。
アナログIC全体は、同1.8%減。2023年1月から13カ月連続でマイナス成長が続いているが、主に汎用アナログの不調によるところが大きい。あらゆる分野に使用される汎用アナログは、コロナ禍で流通網が正常に機能しなかった時期、極めて入手しにくい製品だった。そのため、世界中で仮需が膨らんでしまった。流通機能が正常状態に戻った今では仮需が消滅し、過去の調整を余儀なくされている状態である。特定用途向けアナログをみると、例えば携帯電話機向けは2023年9月まで12カ月連続のマイナス成長だったが、2023年10月以降はプラス成長に転じている。特に2024年1月は同38.9%増という好調ぶりである。これに対して車載アナログは、長らく同20%を超える成長を続けていたが、2023年12月に同10.9%増、2024年1月には同1.9%増、と急に失速し始めた。
マイクロ全体は、同8.1%増。2023年7月から7カ月連続のプラス成長を記録しているが、これはMPU市場が好転したことが要因である。特に2024年1月のMPU市場は同33.1%増という好調ぶりで、PC市場からの需要が回復していることを裏付けている。これに対してMCU市場は2023年11月から3カ月連続のマイナス成長となり、2024年1月は同22.0%減という厳しさである。車載MCUをみてみると、車載アナログと同様長らく同20%を超える成長を続けていたが、2023年12月に同15.3%増、2024年1月には同9.5%減、とマイナス成長に落ち込んでしまった。
ディスクリート市場は、同9.4%減。プラス成長とマイナス成長を繰り返す一進一退の状態が続いている。汎用アナログと同様、あらゆる分野に使用される小信号トランジスタ市場が仮需の消滅によって大きく落ち込む中、好調なパワートランジスタがこれを相殺していたのである。しかし2024年1月のパワートランジスタ市場は同8.4%減、2022年5月以降20カ月続いていたプラス成長がついにマイナスに落ち込んでしまった。パワートランジスタは産業機器向けの比率が高いが、昨今はクルマの電動化に不可欠なデバイスとして需要が増加していた。今回のマイナス成長は、車載向けの需要が落ち込んだことが要因と思われる。
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