半導体の微細化による「ムーアの法則」が頭打ちになりつつあるなかで注目が集まるチップレット技術。本稿では今後の発展の展望や2023年にあった重要なブレイクスルーなどを紹介する。
チップレット技術はどのような状況にあるといえるだろうか? ムーアの法則に基づく微細化のコストメリットが失われつつあると考えれば、マルチダイヘテロジニアス実装のチップレット方式が今後、SoC(System on Chip)設計に置き換わってくるだろうか? 半導体業界がこの重大局面を迎えようとしている中、チップレット技術の実現に向けて悠長に事を進めているだけでいいのだろうか?
これらの問いに対する明確な答えはまだない。ただ、一つだけ確かなことがある。それは、データセンター、クラウドコンピューティング、生成AI(人工知能)など、大量のメモリとチップ間高速通信が要求される計算集約型アプリケーションのニーズに対処するためにはマルチダイアーキテクチャが欠かせなくなりつつあるということだ。
さらに、信頼性とコスト効果の面からも、現行の先進パッケージソリューションのはるか上をいくソリューションを必要としている自動車/ゲーミングアプリケーションがある。では、計算集約型アプリケーション向けの高性能/高拡張性マルチダイアーキテクチャは実際のところ、どのような位置付けになるのだろうか。
チップレット技術は数年に及ぶスモールニッチとしての扱いを経て、2023年にいくつかの重大なブレークスルーが見られた。
成功しているいくつかのシリコン実装において、シリコンインターポーザのサイズ制限といったアドバンスドパッケージ特有の制約を受けずに済むマルチダイアーキテクチャのさまざまな利点が実証されつつある。現在ではアドバンスドパッケージ技術に基づく複雑でコストのかかるソリューションよりも、チップレットベースのシステムを組み込んだ標準有機パッケージのほうが帯域幅、電力効率、遅延において優れていることさえある。
より大規模なSiP(System in Package)ソリューションを包含するチップレットベースのシステムは、低コストで歩留まりも高く、従来よりも高いエネルギー消費効率を実現する。SiPベースのアプローチによってシリコンインターポーザも不要となるため、SiP全体のサイズもパッケージ内のメモリおよび演算コアの数も制約されることがない。
フランスの市場調査会社のYole Groupは、チップレットベースのSiP市場が2027年には1350億米ドル規模を超えると予測している。ただ、Yole Intelligenceコンピューティング/ソフトウェアソリューション部門シニアアナリストのJohn Lorenz氏は、「IC設計にチップレット方式を採用することで得られる経済効果は、インターコネクトおよびパッケージングソリューションのコストと成熟度に大きく左右される」と指摘している。
Lorenz氏はまた、電力と帯域幅の面で最適化を図らなくてはならない半導体サプライヤーのほうがマルチダイ方式をより魅力的にみているだろうと付け加えている。「特にこれが当てはまるのは、主にデータセンターGPUハードウェアによって支えられている高速サーバコンピューティングアプリケーション市場で、この市場での2028年までのCAGR(年平均成長率)は22%を維持するだろう」(同氏)
次ページから、スタートアップ企業3社のチップレット実装に関する注目すべき取り組みを紹介する。それらを見ると、今後もより効率的なチップレット実装が出現しつつあること、そしてその結果チップレット技術が目に見える進歩を遂げるだろうであることは明らかだ。
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