東京工業大学とキヤノンアネルバ、高輝度光科学研究センターの研究グループは、窒化物強誘電体であるスカンジウムアルミニウム窒化物「(Al,Sc)N」薄膜が、従来の強誘電体に比べ、熱/水素雰囲気下での耐久性に優れていることを確認した。強誘電体メモリの製造プロセスを簡素化でき、大幅なコスト削減が可能となる。
東京工業大学とキヤノンアネルバ、高輝度光科学研究センターの研究グループは2024年7月、窒化物強誘電体であるスカンジウムアルミニウム窒化物「(Al,Sc)N」薄膜が、従来の強誘電体に比べ、熱/水素雰囲気下での耐久性に優れていることを確認したと発表した。強誘電体メモリの製造プロセスを簡素化でき、大幅なコスト削減が可能となる。
強誘電体を用いたメモリは、交通系ICカードなどに搭載されている。ただ、これらに採用されている強誘電体メモリ用の材料は、高温の水素含有ガス中で行われる熱処理によって、強誘電特性が著しく劣化するという課題があった。これを防ぐため、水素含有ガスに対する保護膜を設けていた。この工程のため製造プロセスが複雑となり、コスト高となる要因の1つとなっていた。
そこで研究グループは、(Al,Sc)Nの特性について調べた。酸化ハフニウム「HfO2」系強誘電体に比べデータ保持能力(残留分極値)は5倍以上と大きい。ただ、水素を含む高温のガス雰囲気における安定性は、これまで明らかにされていなかった。
実験では、水素含有ガス雰囲気下で窒化物強誘電体をさまざまな温度で熱処理し、強誘電性(自発分極値)の変化量を、熱処理前と比較した。この結果、600℃までの処理温度において、窒化物強誘電体では特性の劣化がほとんどなかった。これに対し、Pb(Zr,Ti)O3やSrBi2TaO7といった複合酸化物強誘電体あるいは、HfO2系強誘電体では、熱処理による強誘電性の劣化が報告されているという。
これらの結果から、(Al,Sc)Nは水素含有ガス対策用保護膜を設けなくても高い信頼性が確保でき、コスト削減につながるという。ハフニウム酸化物と比べメモリ能力は5倍以上で、メモリの高集積化も可能となる。さらに、(Al,Sc)Nは5nmまで薄膜化しても強誘電性の特性の劣化しないことを確認した。
今回の研究成果は、東京工業大学物質理工学院材料系のSun Nana(スン・ナナ)研究員、岡本一輝助教、舟窪浩教授らと、キヤノンアネルバの恒川孝二取締役、高輝度光科学研究センターの坂田修身常務理事、小金澤智之主幹研究員らによるものである。
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