名古屋大学の研究グループは、慶應義塾大学や熊本大学、東京工業大学と共同で、チタン石型酸化物における「新しい反強誘電体を発見」するとともに、反強誘電体の誘電率増大が「ドメイン壁近傍に生じる極性領域に起因する」ことを明らかにした。
名古屋大学の研究グループは2024年6月、慶應義塾大学や熊本大学、東京工業大学と共同で、チタン石型酸化物における「新しい反強誘電体」を発見するとともに、反強誘電体の誘電率増大が「ドメイン壁近傍に生じる極性領域に起因する」ことを明らかにした。
チタン石型酸化物は、反強誘電性をもつ可能性があるといわれてきたが、これを実証するまでには至らなかった。そこで研究グループは、チタン石型酸化物の一種である「CaTiSiO5」について、反強誘電性を実験的に観測することにした。
CaTiSiO5は、互いに平行に並んだTiO6酸素八面体の一元鎖がSiO4酸素四面体によって、互いに連結された構造となっている。これにより形成されるネットワーク構造の空隙にCaが充填される。室温ではTiO6酸素八面体中のTiイオンが、ある方向性をもって変位している。
研究グループは今回、CaTiSiO5の多結晶試料を合成し、さまざまな温度領域で分極測定を行った。この結果、反強誘電性を示す「分極−電場(P-E)二重履歴曲線」を観測することに成功した。分極の印加電場依存性に注目すると、約|100|kV/cm以上の電場領域で、ループ状の振る舞いがみられた。また、分極電流の印加電場依存性では、2カ所にこぶ状の異常が生じていた。
CaTiSiO5におけるSiの半分をGeに置き換えたCaTi(Si0.5Ge0.5)O5では、広い温度領域において、誘電率が著しく増大することを確認した。具体的にCaTiSiO5は、高温側から相転移温度に近づくにつれ、誘電率が緩やかに増大する。相転移温度を下回ると急激に減少した。
これに対しCaTi(Si0.5Ge0.5)O5は、温度が相転移温度を下回っても誘電率はほとんど減少しない。しかも、相転移温度以下の広い温度領域において、誘電率はCaTiSiO5の2倍以上となった。
また、約100K近傍では測定周波数ごとに異なる温度で、誘電率が急激に下がった。この原因を探るため、透過型電子顕微鏡で観察した。この結果、CaTi(Si0.5Ge0.5)O5では、極性を有するナノスケールの領域が、局所的に発生していることを確認した。しかも、この領域は「ドメイン壁」と呼ばれる局所構造の近傍に発生し得ることを明らかにした。
今回の研究は、名古屋大学大学院理学研究科の谷口博基准教授らによる研究グループと、慶應義塾大学理工学部の萩原学専任講師、熊本大学半導体・デジタル研究教育機構の佐藤幸生教授、東京工業大学物質理工学院の横田紘子教授らが共同で行った。
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