東京工業大学は、市販の半導体デバイスを用い、データと電力を同時に伝送できる「ミリ波帯フェーズドアレイ無線機」を開発した。中継器に対し無線給電を行うことで、ミリ波帯5Gの通信エリアを容易に拡大できる。
東京工業大学工学院電気電子系の井出倫滉大学院生と科学技術創成研究院未来産業技術研究所の白根篤史准教授、工学院電気電子系の岡田健一教授は2024年6月、市販の半導体デバイスを用い、データと電力を同時に伝送できる「ミリ波帯フェーズドアレイ無線機」を開発したと発表した。中継器に対し無線給電を行うことで、ミリ波帯5G(第5世代移動通信)の通信エリアを容易に拡大できる。
研究グループはこれまで、無線電力伝送技術を用いた「ミリ波帯中継機」を開発してきた。無線給電用として24GHz帯を、通信用として28GHz帯を利用した装置だ。現行の中継器は外部からの有線電源を不要にしたが、無線電力伝送時の電力変換効率が低いという課題があった。
そこで今回は、電力変換効率が高いGaAs(ガリウムヒ素)ダイオードに注目。通信に必要なミキサーや移相器といった回路要素も市販されている個別半導体で構成した。これによって、無線電力伝送時の電力変換効率を改善した。また、256素子を用いた大規模なアレイ構成にすることで、電力の生成量も大幅に向上させた。利用できる電力量が増えれば、より高利得な増幅器を用いることができ、中継の距離も長くできるという。
具体的には、28GHz帯5G信号の送受信で無線通信を行う。同時にISM帯である24GHz帯を利用した無線電力伝送により給電を受ける。今回開発した無線機は、より高い電力変換効率と無線通信の両立を目指している。このため、GaAsダイオードを用い、ミキサー動作にも対応できる整流器を開発した。この整流器は、受信した28GHz帯無線通信信号を4GHz帯の中間周波数にダウンコンバートしたり、アップコンバートして送信したりすることが可能である。
中間周波数で動作する180度移相器を実装したことで、ビームステアリングも可能となった。この位相器は、2つのバランICとDPDTスイッチICからなる。移相器内では、シングルエンドの信号をバランにより0度と180度の差動信号に変換した後、スイッチで互いに入れ替えてから、再びシングルエンドの信号に変換するという。
試作したフェーズドアレイ無線機には、整流器と移相器をそれぞれ256個(16×16個)ずつ実装している。スイッチを制御するデジタル回路も含め、全て市販の半導体デバイスで構成した。アンテナを用いたOTA(Over the Air)測定で、無線電力伝送時は1素子で50%の電力変換効率を達成した。256素子を全て用いれば、1W以上の電力が出力できることを確認した。5G信号を用いた通信能力テストでは、送信と受信のいずれも、64QAMの変調信号を用いた無線通信に成功した。
研究グループは、「開発した256素子のフェーズドアレイ無線機を、数m角の大規模アレイアンテナに拡大すれば、無線電力伝送による生成電力量が増大し、無線通信速度や距離のさらなる向上が可能になる」とみている。
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