京都大学の研究グループは、濡れ性の高いテトラポッド型正孔回収単分子膜材料「4PATTI-C3」を九州大学と共同で開発した。この単分子層を正孔回収層に用いることで、ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率と耐久性を高めることができるという。
京都大学の研究グループは2024年8月、濡れ性の高いテトラポッド型正孔回収単分子膜材料「4PATTI-C3」を九州大学と共同で開発したと発表した。この単分子層を正孔回収層に用いることで、ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率と耐久性を高めることができるという。
ペロブスカイト太陽電池は、ABX3型ペロブスカイト半導体を光吸収材料として用いる。塗布法で作製できるため、次世代の太陽電池として注目されている。ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けては、光電変換効率の改善が進んでいる。しかし、特性のさらなる向上に不可欠な、電荷(正孔と電子)を選択的に取り出すための回収材料は、開発が遅れているという。
研究グループはこれまで、トリポッド型単分子膜材料「3PATAT-C3」を開発してきた。この分子をペロブスカイト太陽電池の正孔回収単分子材料として用い、高い光電変換効率と優れた安定性を実現してきた。ただ、正孔の回収効率は高くなるものの、単分子膜の表面が疎水的となり、大面積で高品質のペロブスカイト層を作製するのが難しかった。
そこで今回は、ペロブスカイト層に対して上向きに張り出した極性官能基をもつ「マルチポッド型正孔回収単分子膜材料」を開発し、その効果を評価した。実験ではπ共役骨格として、シクロオクタテトラインドール骨格(TTI)に着目し、アンカーとしてアルキルホスホン酸基(PA)を4つ導入した4PATTI-C3を合成した。特性を比較するため「4PATTI-C4」も同時に用意した。
合成したPATTI誘導体のDMF溶液を、金属酸化物(ITO)上にスピンコートし、PATTI誘導体の単分子膜を作製した。このITO基板を作用電極として、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。この結果、吸着量は4PATTI-C3が9.63×1012分子cm-2、4PATTI-C4が9.00×1012分子cm-2となり、従来のトリポッド型PATAT誘導体と同程度であることが分かった。
続いて、単分子膜上における水の接触角度を測定した。この結果、4PATTI-C3では40°、4PATTI-C4では45°となり、カルバゾール誘導体の膜などに比べ、双方とも親水性が向上したことを確認した。これは、COT骨格のサドル型構造により、2つのホスホン酸基がITO基板に吸着し、残り2つのホスホン酸基は、上部のペロブスカイト層側に張り出していることを示すものだという。
研究グループは、光電子収量分光測定を行い、4PATTI-C3単分子膜のイオン化ポテンシャル(HOMO)が、−5.44eVであることを確認した。ペロブスカイト材料の価電子帯(VB)準位とペロブスカイト太陽電池の特性について、その関係性を調べるため、VB準位が異なる2種類のペロブスカイト薄膜を用いてデバイスを作製した。
この結果、4PATTI-C3のHOMO準位に近いVB準位を有するペロブスカイトを用いたデバイスの光電変換効率は19.3%にとどまった。これに対し、4PATTI-C3のHOMO準位に比べて0.25eV深いVB準位のペロブスカイトを用いたデバイスでは、光電変換効率が 21.7%に向上した。これは4PATTI-C3/ペロブスカイト界面での再結合が抑制されたためだという。しかも、デバイス面積が10倍も広いミニモジュール(1.62cm2)でも、光電変換効率は21.4%となり、大きな低下はなかった。さらに、不活性ガス雰囲気下で100時間の連続光照射を行い、97%以上の特性を保持できることを確認するなど、耐久性に優れていることを実証した。
なお、今回の成果については、京大発ベンチャー「エネコートテクノロジーズ」にも技術移転し、早期実用化を目指すことにしている。
今回の研究成果は、京都大学化学研究所の若宮淳志教授、チョン ミンアン助教らの研究グループと山田琢允同特定助教、金光義彦同特任教授および、九州大学の飯久保智教授らによるものである。
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