NVIDIAの2025年1月期第2四半期業績が発表された。その内容は事前のガイダンス通りだったが、株価は下落した。株価下落はNVIDIAの業績や今後の見通しに大きな変化はない、と見ている。だが、かなりインパクトの大きなニュースとして報道されたので、独自の見解をここで述べておく。
2024年8月28日、NVIDIAの2025年1月期第2四半期(2024年5〜7月期)決算が発表された。結果はほぼガイダンスを上回る内容だったが発表後、同社の株価は下落した。そして9月3日、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで米司法省がNVIDIAに資料の提出を求めたとする報道があり、株価はさらに下落した。わずか1日で時価総額にして40兆円超、一流企業が数十社倒産したようなインパクトを持つ株価下落が発生したことになる。筆者としては、今回のことはあくまでも株式市場の中だけの話で、NVIDIAの業績や今後の見通しに大きな変化はない、と見ている。だが、かなりインパクトの大きなニュースとして報道されたので、独自の見解をここで述べておきたいと思う。
図1は、NVIDIAの四半期決算の推移をグラフ化したものである。
筆者はさまざまな企業の業績を分析しているが、四半期毎に売上高と営業利益で「過去最高」を実現している上場企業など見たことがない。NVIDIAの売上高は2024年1月期第2四半期(2023年5〜7月期)に初めて100億米ドルの大台を突破し、今回の決算ではついに300億米ドルを突破した。3カ月前のガイダンスでは「2024年5〜7月期売上は280億ドル前後」としていたので、これを上回る好決算だったと言えよう。粗利益、営業利益、当期利益、いずれも過去最高を記録した。にもかかわらず、発表後の株価は6〜8%下落した。恐らく株式市場では、「もっと上」の数字を期待していたのだろう。
細かいことだが、今回の決算でNVIDIAの粗利益率は75.1%だったが、これは前四半期の78.4%を下回っている。ファブレスのNVIDIAは設備投資を行わないので、減価償却費の負担が増えるはずはない。売上高が増えれば、粗利率も増えるはずではないか。全ての投資家に確認したわけではないが、粗利率が低下したことを問題視している投資家は確かにいたらしい。グラフを見ると、同社の売上原価は確かに前四半期の56.38億米ドルから今回は74.66億ドルに上昇している。分かりやすく言えば「TSMCに払った金額が増えた(32.4%増)」ということである。
TSMCの2024年4〜6月業績を見ると、High Performance Computing部門の売り上げが前四半期から28.5%という驚異的な伸びを見せている。同部門の最大顧客であるNVIDIAの業績が伸びているのだから、文字通りこれはWin-Winの関係ということになるわけだが、TSMCは2024年4〜6月期から先端プロセスの値上げを断行しているのである。NVIDIAは時価総額でTSMCを大きく上回り、粗利率も70%を超えているとなれば、両社の間で「少し値段を上げさせてくれ」という会話があっても不思議ではない。ちなみにNVIDIAは、2024年8〜10月期の売上高を325億米ドル前後、粗利率を74.4〜75.0%と見込んでいる。これまでの売り上げや利益をまた更新することは間違いないが、粗利率はさらに若干下がる見通しのようである。恐らく、TSMCがもう一段値上げすることを前提としているのだろう。決して問題視するような利益水準ではないし、将来を案ずるようなレベルでもない。次回の2024年8〜10月期決算でガイダンス通りの結果が出たときに株式市場はどのような反応を見せるのだろうか。証券業界を引退して20年が経過した筆者としては、あまり関係のない話ともいえるが、一応興味だけはあるのが本音である。
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