図2は、NVIDIAの売上構成をグラフ化したものである。
データセンター向けが順調に伸び、同社製GPUがAIサーバ向けに独り勝ちを収めている。特にGPU「H100」シリーズが大手ITベンダー各社から非常に高い評価を受け、1個3万5000〜3万6000米ドルというとても半導体の価格とは思えないような値段で飛ぶように売れている、というから恐れ入る。これが2023年11月〜2024年1月に50万個、2024年2〜4月に65万個、2024年5〜7月に75万個が出荷され、毎四半期売り上げ増を記録しているようだ。実際にはこれよりはるかに多くの注文があり、今発注しても出荷は1年先になるとも言われている。つまり、TSMCの生産能力次第でNVIDIAの業績はさらに上振れる余地がある、ということである。さらにNVIDIAは次世代GPUとして「B200」「GB200」を発表しており、B200はH100の7〜30倍高速で電力消費は25分の1に抑えられる、と同社は主張している。
ところが2024年8月初旬、このB200の出荷が当初予定の2024年10〜12月から2025年1〜3月以降にずれ込む可能性がある、という報道が散見され始めた。遅れの原因は設計上の欠陥によるもので、設計段階ではなくテスト製造の段階で発見されたらしい。いずれもB200を導入予定だった顧客サイドから漏れてきた情報で、NVIDIAからの正式なコメントはない。にもかかわらず、この時もNVIDIAの株価は10%程度下落した。同社の将来性を懸念する要因としては、粗利率に対して数ポイントの突っ込みを入れるより、こちらの方がより深刻だと筆者も思う。しかし8月の半ばには、NVIDIAの株価は決算発表前の高い水準に戻っていた。確認したわけではないが、高騰するNVIDIA株を買い損ねた投資家たちにとって、このニュースがむしろ絶好の買い場を作ってくれたのではないだろうか。ちなみにB200の価格は7万米ドル前後とH100の2倍程度が想定されているらしい。
そして2024年9月3日、米司法省が独占禁止法違反疑いで調査を始めたとする報道があった。もう少し具体的に言うと、米司法省はNVIDIAが顧客に対して、自社のAI用半導体のみを使用するように強制していた疑いがある、ということである。もともとNVIDIAはGPU市場で7割前後のシェアを誇っていたが、同社が顧客にソフト開発環境(CUDA)を他社に先駆けて提供し始め、GPUがAIに活用されるようになってから、同社のGPUシェアはどんどん上昇している。調査会社Omdiaによれば、NVIDIAのGPUシェアは今では97%にもなっているという。しかもNVIDIAは2024年4月、イスラエルのソフトウェア開発会社「Run:ai」を買収。これによって顧客企業のGPU運用を支援する狙いである。恐らく、AMDやIntelなどの競合からは、NVIDIAがGPU市場をさらに固めて盤石なものにすべく動いているように見えることだろう。司法省を動かすには十分な動機があったのではないだろうか。
結果としてNVIDIAの株価は、B200の出荷が遅れる問題が報じられた時の水準まで下落したが、筆者は前回と同様、NVIDIA株の「絶好の買い場」がやってきただけで、同社の業績に大きな影響はないだろう、と予測している。あくまでも臆測にすぎないが、今回の司法省の動きは競合他社からの「けん制球」程度のもので、大きな問題に発展する可能性はかなり小さいと思われるからである。
筆者としては「NVIDIAの天下は、あと2年は続く」とみている。当面はNVIDIAを中心にAI業界が動くことが予想される。ただ、NVIDIAは消費電力を下げられない、PCやスマホなど端末側でソリューションを展開できない、という課題を抱えており、NVIDIAの活躍はデータセンターの中に限定されてしまう可能性がある。データセンター向けにしても、同NVIDIAの開発環境を高く評価しているのは人間(ソフト開発者)であり、この作業がAI化されたときにNVIDIAの評価がどうなるのか、まだ誰にも分からない。NVIDIAが「2年後にダメになる」と言っているわけではなく、「NVIDIA以外にも注目すべき企業はたくさん出てくるだろう」という楽しみに期待しているのである。AIがわれわれの生活をさまざまなな形で支援してくれることを待つだけでなく、われわれとしては「AIをどのように活用すべきか」をよく考え、来たるべきAI時代に備えたいものである。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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