今回は、空冷(空気冷却)技術と液冷(液体冷却)技術の違いを説明する。
サーバやデータセンターなどの放熱技術に注目が集まっている。演算処理を担うGPUとCPUの最大消費電力(熱設計電力(TDP))が増加しつつあることで、効率の高い放熱技術が強く求められるようになってきた。
そこで本コラムでは、サーバやデータセンターなどを支える最新の放熱技術を第468回から、シリーズで説明している。人工知能(AI)の急速な進化により、GPUとCPUの消費電力が急速に増大しつつある。既存の強制空冷方式を備えたデータセンターで古いサーバを新しいサーバで置き換えるためには、何らかの工夫によって冷却能力を高めておく必要がある。
前回は、既存の強制空冷システムを残しつつ冷却能力を高める工夫として、「後扉熱交換器(RDHX:Rear Door Heat Exchanger)」方式または「リアドア空調」方式と呼ばれる後扉付きの冷却器をラックの背面に取り付ける(あるいは配置する)手法をご紹介した。ラック当たりの冷却能力を最大で45kWにまで高められる。なお既存の強制空冷システムによる冷却能力は、ラック当たりで10kWとされる。
「リアドア空調」方式から冷却能力をさらに高めるためには、液体冷却技術を導入しなければならない。そこで今回は、空冷(空気冷却)技術と液冷(液体冷却)技術の違いを基礎の基礎から説明する。
空冷は放熱に空気を使い、液冷は放熱に液体を使う。この液体には「水」を使うことが多いので、ここでは「水」を前提に説明を進めよう。
発熱体(熱源)から熱を取り除く、あるいは熱源を冷却するためには、放熱システムを構築する。放熱システムの熱抵抗(℃/W)が、許容可能な消費電力の最大値を決める。熱抵抗は放熱材料の断面積と熱伝導率に反比例し、放熱材料の長さに比例する。
ここで熱伝導率は、長さが1m、断面積が1m2の材料(放熱媒体)両端で温度差が1℃のとき、材料(放熱媒体)内を通過する熱量(W)を指す。熱伝導率の高さが、許容可能な電力(W)の大きさを決めることが分かる。
気体、液体、固体の主な放熱材料で熱伝導率を比較すると、空気の熱伝導率が最も低く、金属の熱伝導率が最も高い。空気と水の熱伝導率にはおよそ26倍の開きがあり、水の熱伝導率が高い。そしてシリコン単結晶の熱伝導率は水の266倍もある。さらに銅の熱伝導率は水の692倍、シリコン単結晶の2.5倍と極めて高い。
これらの特性から、消費電力の特に大きな半導体チップに熱伝導率の高い金属を近接して配置し、金属内部に設けた管状の流路に水を通して冷却する技術が考案され、実用化されている。この技術は「伝導水冷」と呼ばれる。
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