TDKが、新しい車載PoC(Power over Coax)用積層インダクターを開発した。「業界最小」(TDK)サイズかつ、高品質なフィルター特性や高周波帯域での高いインピーダンスを実現している。
TDKは2024年11月19日、車載PoC(Power over Coax)用積層インダクター「MLJ1005-Gシリーズ」を開発したと発表した。従来品と比べ、通電時のインピーダンス特性の劣化を1MHzから1GHzの広帯域で抑制。高周波帯域でのフィルター特性も向上した。製品サイズは1.0×0.5mmと「PoC用積層インダクターとしては業界最小」(TDK)で、実装面積の削減を可能にした。サンプル価格は1個あたり30円(税別)。2024年11月から量産を開始している。
自動運転技術の進展に伴って自動車のセンサーやカメラが増加する中、ワイヤハーネスの重量増が課題となっている。そのため、信号と電力を1本の同軸ケーブルで伝送するPoC化によってケーブル本数を削減する動きがある。PoC方式はケーブルを削減することで車両の軽量化と低燃費化に貢献し、さらにCO2排出量の削減も期待できる。
ただしPoC伝送回路では、同時に伝送される広帯域の信号と直流電源を分離しなければ、互いにノイズとなってしまう。対策として、信号ライン側には直流をカットするコンデンサー、電力ライン側には広帯域の信号の流入を防ぐインダクターやチップビーズを組み合わせてフィルターとして使用する。
MLJ1005-Gシリーズはこの電力ラインのフィルターに用いるものだ。材料設計と構造設計を見直すことで、従来品の「MLJ1608-Gシリーズ」(2022年に発売)と比べ、さらなる小型化および高周波帯域対応を実現した。
PoCフィルターでは広帯域で高いインピーダンスが求められるため、周波数領域が異なるインダクターを複数個組み合わせて使用する。今回の新製品はその中でも高周波帯域に向けたもので、センサーやカメラの高機能化による伝送速度の高速化にも対応できる。
PoCフィルターには高電流が流れることから、通電時のインピーダンス変化が少ないことも重要だ。TDKの検証では、一般的なチップビーズは200mAの通電時に100MHzでインピーダンスが85%低下したのに対し、MLJ1005-Gシリーズは40%と変化が少なかったとしている。
PoC用インダクターは従来、小型であることよりもインピーダンス特性を重視する傾向が強かったが、カメラモジュールなどの小型化に合わせて実装面積削減のニーズが大きくなってきているという。今回の新製品は小型化によってそうしたニーズにも応えるものだ。
TDKは今後もPoC用積層インダクターのラインアップ拡充を続けるという。2026年以降をめどに、より高インダクタンスの製品や定格電流を大きくした製品を展開する計画だ。
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