産業技術総合研究所(産総研)と東京科学大学は、強誘電体メモリ(FRAM)に用いる新材料として「GaScN結晶」を開発した。金属添加物(Sc)の濃度を高めることで、杭電界を小さくした。これにより、従来の窒化物材料と比べメモリ動作に必要な電圧を60%も下げることができるという。
産業技術総合研究所(産総研)と東京科学大学の研究チームは2024年12月4日、強誘電体メモリ(FRAM)に用いる新材料として「GaScN結晶」を開発したと発表した。金属添加物(Sc)の濃度を高めることで、材料内部の分極を反転させるための電界強度(杭電界)を小さくした。これにより、従来の窒化物材料と比べメモリ動作に必要な電圧を60%も下げることができるという。
強誘電体メモリは、消費電力が少なく次世代の不揮発性メモリとして期待されている。こうした中、使用する材料として窒化ガリウム(GaN)にScを添加したGaScNが注目されている。安定した結晶で耐熱性に優れており、残留分極値もHfO2系に比べ4倍以上も大きく、メモリの高集積化に向けて有利となる。その上、スパッタリング法で薄膜を製作できるなど、多くの特長があるからだ。
ただ、杭電界はHfO2系に比べ約2倍も必要となり、GaScNを用いた強誘電体メモリの動作電圧が高くなるという課題があった。GaScN結晶内のSc濃度を高くすれば杭電界を小さくでき、低電圧化が可能なことは分かっている。しかし、Sc濃度を高めるとGaScNの結晶性が低下するため、現状では濃度44%が上限といわれてきた。
研究チームは今回、統計学的手法を用い作製プロセスを最適化した。この結果、GaScNの結晶性を保ちながらSc濃度を53%まで高めることに成功した。Scの濃度を高めたことで抗電界が大幅に小さくなった。杭電界の最小値は約1.5MV/cmで、HfO2系と同等レベルである。Sc濃度が44%のGaScNに比べると、その値は半分以下となった。
実験では、分極反転の繰り返し耐性も検証した。開発したGaScNは、正と負に反転を繰り返しても108回まで残留分極値が保持されていることを確認した。従来の窒化物強誘電体が有する耐性より約100倍も高いことが分かった。
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