6G向けテラヘルツ波吸収フィルムを極薄で実現:0.1T〜1THzのテラヘルツ波を吸収
東京大学の研究グループは0.1T〜1THzのテラヘルツ波を吸収する極薄の「テラヘルツ波吸収フィルム」を、新日本電工と共同で開発した。6G(第6世代移動通信)や非接触バイタルモニタリングシステム、セキュリティセンシングシステムなどの用途に向ける。
東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授らによる研究グループは2025年1月、0.1T〜1THzのテラヘルツ波を吸収する極薄の「テラヘルツ波吸収フィルム」を、新日本電工と共同で開発したと発表した。6G(第6世代移動通信)や非接触バイタルモニタリングシステム、セキュリティセンシングシステムなどの用途に向ける。
0.1T〜1THzのテラヘルツ波は、無線通信の高速化や大容量化、低遅延化、複数デバイスの同時接続を実現できることから、6G以外でもさまざまな用途でその応用が検討されている。一方で、情報セキュリティの確保や電磁波干渉の回避、センシング感度の向上などを実現するには、不要な電磁波ノイズを吸収する必要がある。これを解決するには電磁波吸収フィルムなどを用いるのが有効だが、0.3THz以上のテラヘルツ波を吸収できるフィルムは、まだ実用化されていないという。
そこで研究グループは、導電性のラムダ型五酸化三チタン(λ-Ti3O5)の表面を絶縁性酸化チタン(TiO2)ナノ粒子で被覆した表面コート型ラムダ型五酸化三チタンを合成し、厚みが48μmと極めて薄いテラヘルツ波吸収材料を開発した。
左上図はλ-Ti3O5の結晶構造とSEM(走査型電子顕微鏡)像。左下図はTiO2ナノ粒子の結晶構造とTEM(透過型電子顕微鏡)像。右図は表面コート型ラムダ型五酸化三チタンのSEM像[クリックで拡大] 出所:東京大学
開発した表面コート型ラムダ型五酸化三チタンの特性を、テラヘルツ時間領域分光法を用いて評価した。この結果、0.1〜1THzの範囲で誘電正接は「0.76」という高い値を示した。この要因として、「ラムダ型五酸化三チタン結晶内部のドメイン界面、絶縁性TiO2ナノ粒子とラムダ型五酸化三チタン結晶の間の界面で生じる電子散乱によって、極めて高い誘電損失がテラヘルツ波帯域で発現した」ことを挙げた。
表面コート型ラムダ型五酸化三チタンを用いて開発した厚さ48μmのテラヘルツ波吸収フィルムは、0.77THzで−28dBの反射損失(99.8%吸収に相当)を示した。その上、耐熱性や耐光性、耐水性、耐有機溶剤性などにも優れており、屋外環境や過酷な条件下での利用も可能だという。ラムダ型五酸化三チタンの量産コストは、吸収フィルム1m2当たり数百円程度と安価で、環境に優しい材料である。
表面コート型ラムダ型五酸化三チタンの誘電率実部(左上)、誘電率虚部(右上)、誘電正接の周波数依存性(左下)および、誘電率実部に対する誘電率虚部のプロット(右下)[クリックで拡大] 出所:東京大学
上図はラムダ型五酸化三チタン一次粒子のTEM像とドメイン構造の模式図、下図はラムダ型五酸化三チタン結晶のドメイン界面や絶縁性の酸化チタンナノ粒子で覆われたラムダ型五酸化三チタン結晶の表面では、電流が散乱されエネルギーが損失[クリックで拡大] 出所:東京大学
上図は金属基板上に形成された表面コート型ラムダ型五酸化三チタンからなるフィルムの反射損失スペクトル。下図はシミュレーションによる吸収体の厚みと周波数に対する反射損失および、実験で得られた厚みと吸収ピーク周波数[クリックで拡大] 出所:東京大学
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