東京大学と高輝度光科学研究センターの研究グループは、永久磁石の「マグネタイト(Fe3O4)」に希土類元素を添加することで、飽和磁化が増大することを実証した。
東京大学大学院工学系研究科の関宗俊准教授や吉田博嘱託研究員、田畑仁教授および、高輝度光科学研究センターの山神光平テニュアトラック研究員を中心とする研究グループは2025年3月、永久磁石の「マグネタイト(Fe3O4)」に希土類元素を添加することで、飽和磁化が増大することを実証したと発表した。
Fe3O4は、環境調和性と生体調和性を併せ持つ磁性酸化物である。このため、スピントロニクスだけでなく医療や触媒化学、環境工学など幅広い分野で、その応用が研究されている。機能を向上させることができる「飽和磁化の増大」もその1つである。
吉田氏らはこれまで、「Fe3O4のスピネル型結晶構造中にある正四面体サイトの鉄(Fe)をユウロビウム(Eu)で一部置換すると、3d-4f混合電子系の相対論的量子効果による巨大スピン軌道相互作用と、局在した3d-4f電子間の強い交換相互作用の協奏効果によって、磁化が著しく増大する」ことを予測してきた。しかし、Eu置換Fe3O4単結晶は実現できなかったという。
そこで今回は、Fe3O4の単結晶薄膜を成長させる工程で、成膜速度を変えながらEuの分布を制御することにした。この結果、成膜速度が遅いと空隙の大きな正八面体サイトにEuが優先的に入る。成膜速度を極めて速くすると、Euは四面体サイトに入ることを確認した。
また、この正四面体のFeをEuで置換した薄膜(Eu:Fe3O4薄膜)は、予測された通りFe3O4薄膜に比べ、大きな飽和磁化を持つことが分かった。さらに、大型放射光施設「SPring-8 BL25SU」を用いて、軟X線内殻吸収磁気円二色性(XMCD)実験を行ったところ、正四面体サイトのEuと正八面体サイトのFeの電子スピンが強磁性的に結合していることも明らかになった。
Eu:Fe3O4薄膜の電気特性も調べた。この結果、Fe3O4薄膜とほぼ同じ電気抵抗を示した。これは、Euが添加されても八面体サイトにおけるFe間の電子ホッピングが阻害されないことを示すものだという。また、Eu:Fe3O4薄膜では、室温において異常ホール効果がみられた。この現象は伝導電子が室温で高いスピン分極率となることを示すものだという。
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