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TSMCは誰のもの? 米国やAI偏重で懸念される「1本足打法」湯之上隆のナノフォーカス(81)(3/5 ページ)

» 2025年05月14日 11時30分 公開

TSMC 7nm“消滅危機”――工場再編と技術の大転換

 筆者は、TSMCの7nmノードの売上高が半減した件について、TrendForceのアナリストに対し「TSMCの7nmはこのまま消えてしまうのか?」という問いを、繰り返し投げかけてきた。

 これまでの回答を振り返ると、2023年12月14日に開催されたTrendForceのセミナーにおいては「TSMCは今後、通信用半導体(RF)を7nmノードで製造する予定であり、売り上げは回復する」との説明があった。2024年12月12日のセミナーでも、ほぼ同様の見解が示されていた。

 ところが、直近の2025年4月17日のセミナーでは、一転して「7nmの工場は、5nmまたは3nmへと転換される可能性がある」との回答があった。要するに、世界的に7nmの需要が減少し、工場の稼働率が著しく低下しているため、より需要が拡大している5nmおよび3nmノードへの転換が検討されているというわけである。

 しかし、これは決して容易なことではない。というのも、TSMCの7nmノードの月産キャパシティーは約15万枚と推定されるが、このうちEUVを使用する7nm+(6nm)ノードのキャパシティーは、最大でも月産2万枚程度にとどまる。つまり、残りの13万枚分の設備はEUVを導入しておらず、それらを5nmや3nm対応へと転換するには、EUV専用のクリーンルームに作り変えるなど、大規模な改修が必要となる。これは非常に手間とコストのかかる作業である。

 さらに、この7nmの売り上げ減少の問題は、TSMC熊本工場(JASM熊本工場)の将来にも影響を及ぼす可能性がある。少し脇道に逸れるが、TSMC熊本工場について分析してみたい。

懸念されるTSMC熊本工場の行く末

 TSMC熊本の第1工場は、28nmおよび16nmのロジック半導体を月産5万5000枚規模で量産する計画であった。そして実際に、2024年12月から28nmの量産が開始された。

 しかし、16nmについては世界的な需要の減少を背景に、製造装置の搬入が停止された(日経新聞、2025年3月29日)。この判断は、前掲の図7を見ても理解できる。というのも、TSMC台湾本社における16nmの売上高は、2022年第2四半期から2023年第4四半期にかけて半減しているためである。その後、若干の回復傾向も見られるが、ピーク時の水準には戻っていない。

 加えて、TSMC熊本第1工場で既に量産が始まっている28nmに関しても、TSMC台湾本社では2023年第1四半期以降、売上高が大きく減少している。このような状況を見ると、今後、熊本第1工場の生産量が抑制される可能性も否定できない。

 さらに、2025年に着工予定の熊本第2工場では、7nm(あるいは6nm)プロセスによる量産が計画されている。しかし、TSMC台湾本社では7nmプロセスの売り上げが依然として半減したままであり、需要は回復していない。このような状況下で第2工場を7nm(または6nm)向けに建設することは、経済合理性に欠ける。なぜなら、工場を建設しても、そこで量産される製品に対する需要が十分でない恐れがあるからだ。TSMC熊本工場は、今後どのような方針を取るつもりなのだろうか。

 さて、以下では再びTSMC台湾本社に話題を戻す。まずは、TSMCの地域別売上高(比率)を見てみよう。

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