NVIDIAのように、これらの規制を回避するために中国市場向けに改良した製品を開発している企業もある。その一方で、立法府はより厳しい追跡メカニズムを打ち出している。業界は不確実性の高まりに直面しており、戦略的な敏しょう性とリスク管理の重要性が浮き彫りになっている。
NVIDIAはさらに、中国向けにダウングレードした「H20」チップのリリースを計画することで、規制への対応を進めている。また、MediaTekと提携してArmベースのPCプロセッサを開発し、新たな市場も開拓している。
この戦略は、市場での存在感の維持を目的としているが、Huaweiの「Ascend」シリーズのような中国国産AIチップに対する競争力は依然として不明である。特に中国向けの高度なAIチップの追跡を目的とした法案が提出されるなど、さらなる規制強化が予想されている。
さらに複雑なことに、トランプ政権は、現在の段階的な輸出規制を「よりシンプルな」グローバルライセンス制度に置き換えることを目指しており、厳格さと予測可能性に対する長期的な影響は不明である。
対象を絞った規制を超えた、より広範な関税政策も大きな逆風となっている。GlobalFoundriesは、2025年後半に関税による逆風が吹くと予想しており、年間約2000万米ドルのコスト的な影響が出ると見込んでいる。Infineon Technologiesは通期見通しを下方修正したが、これは現在進行中の関税紛争と不利な為替レートが一因となっている。
中国のSMICは、米国顧客の先取り購入により第1四半期は好調だったが、関税をめぐる不確実性から2四半期は減収となる可能性があると通告していた。SMICは後に、第1四半期における関税の直接的な影響は最小限にとどまったと述べているが、不確実性は今後の見通しに重くのしかかっている。TSMCも持続的な関税リスクを認めており、最近の好調な業績の一部は顧客の備蓄によるものだと述べている。
直近の財務報告書は、企業が需要の高い分野に関与しているかや、経済の変化や貿易紛争の影響を受けやすいより広範な市場に関与しているかによって、左右されている。
ファウンドリーおよび統合デバイスメーカー(IDM)の中で、TSMCは、主に高度なAIチップの需要にけん引され、引き続き堅調な業績を示している。同社は2025年4月の連結売上高が前年同月比で大幅増となり、過去最高を記録したと報告している。
この好調な業績は、顧客が関税引き上げの可能性に先立って部品を確保しようと急いだことと、HPCおよびAI向けの先進プロセス技術(3nmおよび5nm世代)に対する需要に支えられている。TSMCは第2四半期の業績が過去最高を記録すると予測しているが、ニュー台湾ドルの上昇や関税の不確実性が続いていることによるリスクにも直面している。
Intelのファウンドリー事業は、「18A」プロセスや報道されているMicrosoftとの契約を含め、米国の事業に有利に働いている。一方、GlobalFoundriesは、2025年第1四半期の売上高は緩やかな伸びを見せたが、関税による逆風を予想している。
SMICは、米国での売上高の増加(先取り購入によるものとみられる)により第1四半期の売上高と利益が急増したが、第2四半期は、長期的な先端ノードの課題に直面していることと、関税と歩留まりの問題による業績低下が予測されている。
Infineon Technologiesは、第2四半期の売上高が前四半期比で増加したと報告したが、関税と為替レートの影響により通期見通しを下方修正している。onsemiは、自動車関税の引き上げの決定にもかかわらず、EV向け炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の需要にけん引されて、第1四半期の売上高は予想を上回った。
InventecやWistronなどのサプライチェーンパートナーは、AIサーバに対する堅調な需要と関税前引き取りの恩恵を受けている。両社は、関税の影響の軽減と顧客サポートのために米国での製造への投資も行っている。
力強い成長が見られる一方で、多くの指標や企業声明は、市場全体の減速の具体的なリスクを示唆している。市場は、世界的な急激な同時減速ではなく、「緩やかな調整」段階に入っている可能性が高い。特定のセグメントや地域では、関税、在庫サイクル、需要要因といった特有の要因の影響を受けて、減速を経験する可能性があると思われる。
結論として、半導体業界は大きな変革期を迎えているといえる。保護貿易主義、地政学的な摩擦、マクロ経済の不確実性といった逆風に直面しながらも、デジタル化やAI、電動化がけん引する根本的な需要は依然として堅調である。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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