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Broadcomのスペイン投資中止が示す「国家的支援の限界」欧州全域で半導体強化に乗り出すも(2/4 ページ)

» 2025年07月17日 11時30分 公開
[Pablo ValerioEE Times]

国家補助が、産業の集中を助長

 さらに、製造業の奨励に向けた欧州半導体法の主要メカニズムである「first-of-a-kind(FOAK)」指定の国家補助は、図らずも既存の産業の集中を強化することになっている。

 数十億ユーロの投資を行う企業は、リスクを最小限に抑えることを優先するため、当然のことながら「Silicon Saxony(シリコンザクセン)」として知られるドイツのドレスデンのような地域に集中する。Silicon Saxonyは、サプライヤー、研究機関、訓練を受けた労働力からなる成熟したエコシステムを備えた欧州最大の半導体産業の集積地である。

 こうした理由により事実上、実績のあるハブに投資が集中し、特に南欧の挑戦的な地域が独自のエコシステムを構築するために必要となる大規模なプロジェクトを誘致することが非常に困難になっている。

 EUレベルの推進と並行して、スペインは独自の野心的な「マイクロエレクトロニクスと半導体の回復と経済変革に向けた戦略的プロジェクト(PERTE Chip)」を立ち上げた。

 これは、2022年5月に承認された122億5000万ユーロの公共投資プログラムで、主にEUのパンデミック救済基金から資金提供を受け、スペインの半導体バリューチェーン全体の強化を目指している。その目標は、科学的能力の強化やファブレス設計企業の育成から、最も野心的な大規模な半導体製造工場への投資の誘致まで、多岐にわたる。

 2年以上を経て、PERTE Chipプログラムは、それなりの成果を上げている。スペインの既存の技術力を強化するための資金を適切に配分し、15の大学教授職や1000人を超える専門家の育成に助成金を提供し、人的資本の開発を支援してきた。

大規模ファブの誘致、スペインでは難しい

 また、ニッチながらも戦略的に重要な分野への的を絞った投資も実施している。具体的には、III-V光集積回路の開発に向けてビーゴにあるSPARCファウンドリーに1720万ユーロの資金提供を行ったほか、自動車市場向けオプトエレクトロニクスチップのパッケージングとテストのためにマドリードの光半導体メーカーであるKDPOFを支援するなどしている。

 しかし、プログラムの主要目標である「大規模な半導体製造工場の誘致」は実現していない。アナリストらは「IntelとTSMCがドイツで進めている数十億ユーロ規模のプロジェクトに匹敵する製造イニシアチブが、スペインには全く存在しない」と指摘し、一部の国内関係者は、大規模ファブ誘致という目標を「短期的には実現不可能な理想論」と評している。

 同プログラムは、既存の基盤強化という点では優れていることが証明されている。しかし、比較的新しい基盤から大規模製造産業の新たな柱を創出するには、非常に厳しい参入障壁を克服する必要があるが、これはまだできていない。

 野心と成果の乖離は、スペインの利害関係者の間で「深い幻滅」が生まれる一因となった。他の重要な分野で成功しているにもかかわらず、ファブの誘致という困難な目標をめぐる当初の枠組みが、失敗と認識される状況を招く結果となった。

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