Taiwan Semiconductorが、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体事業に参入。1200V耐圧品としては「世界最小パッケージ」(同社)となるSiCショットキーバリアダイオード(SBD)製品群を販売開始した。TSCのプロダクトマーケティング担当バイスプレジデントを務めるSam Wang氏に話を聞いた。
Taiwan Semiconductor(以下、TSC)は2025年8月6日、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体事業に参入すると発表した。同日から1200V耐圧品としては「世界最小パッケージ」(同社)となるSiCショットキーバリアダイオード(SBD)製品群を日本で販売開始。TSCのプロダクトマーケティング担当バイスプレジデントを務めるSam Wang氏は「当社は、非常に小型、薄型かつ高性能を実現する製品を市場に導入することで、SiCパワー半導体市場におけるリーディングプレイヤーになれると考えている」と述べている。
TSCは1979年に台湾の台北市で設立され、ディスクリートパワー半導体や回路保護デバイス、アナログICの開発/製造/販売を手掛ける半導体メーカーだ。創業当初は主に整流ダイオードを手掛けていたが、2000年以降、MOSFETやLDOレギュレーター、LEDなどにも製品群を拡張。2018年にはonsemiからTVSダイオード事業を買収した。
従業員数は約1500人で、世界21カ所に販売拠点を展開。製造拠点としては中国、台湾に前工程、後工程拠点をそれぞれ1カ所の計4拠点を置いている。
売上高全体の約7割を自動車向けと産業向けが占めていて、「先進運転支援システム(ADAS)や電気自動車(EV)、AIサーバなどのトレンドへの対応を着実に進めている」としている。今回のSiCパワー半導体市場参入も、EV市場で高まる要望に向けて決定したものだ。
近年、EV市場が活発になる中、トラクションインバーターにおいてSiCパワー半導体の採用が加速。それに伴って質の高いSiCパワー半導体の安定供給が自動車関連メーカーから求められているといい、TSCは「これに対応するため当社はSiCパワー半導体市場に参入することを決定した」としている。
同社が今回の参入で市場に投入するのは、1200V耐圧のSiC SBD製品群だ。同製品はPIN構造とショットキー構造を統合したMPS(Merged PIN Schottky)構造を採用し、高い正方向サージ電流耐量、低い正方向電圧降下、低い漏れ電流、低い容量電荷を実現している。これらの特性によって、高周波や高電圧のアプリケーションにおいて効率と信頼性が向上。また、車載電子部品の信頼性規格「AEC-Q101」準拠で、厳しい熱環境への適合性が求められる用途でも利用が可能となっている。
TSCは今回の製品を複数のパッケージバリエーションで展開するが、特に強調するのが1200V耐圧品として「世界最小パッケージ」というSOD-128(3.8x2.5x1.0mm)パッケージおよび、SMBパッケージといった小型パッケージ品の展開だ。また、同社は今回、従来型のパッケージから沿面距離を見直しSOD-128で3.2mm、SMBで2.6mmと十分な距離を確保。これによって優れた電気的絶縁特性も実現したとしている。
SBDは、SiC MOSFETで回路構成されるインバーターにおいてブートストラップおよび非飽和保護回路などに採用されるが、Wang氏は「小型、薄型で強力な性能が、設計の柔軟性や基板の小型化に大きく貢献できる」と強調。これによって、走行距離の延長や重量の軽減といったEVの課題に対応するとしている。
SOD-128やSMBの定格電流は1Aおよび2Aで、さらに高い電流が要求される用途に向け、最大40A定格のTO-247-3Lパッケージなども用意。EVやハイブリッド車、プラグインハイブリッド(PHV)などの車載向けはもちろん、AIサーバ、太陽光インバーターシステムなど幅広いアプリケーションに対応可能としている。
なお、近年のSiC事業は「垂直統合型」を取るパワー半導体メーカーが多いが、TSCは、SiCの製造については前工程は台湾の外部ファウンドリーを利用し、後工程は自社工場で行う形をとっている。
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