広島大学の研究グループは、有機薄膜太陽電池(OPV)の発電材料として、合成コストを従来の約3分の1に抑えた「p型半導体ポリマー」を開発した。高コストパフォーマンスと同時に、高いエネルギー変換効率と耐久性も実現した。
広島大学大学院先進理工系科学研究科の山中滉大特任助教、三木江翼助教、尾坂格教授らによる研究グループは2025年8月、有機薄膜太陽電池(OPV)の発電材料として、合成コストを従来の約3分の1に抑えた「p型半導体ポリマー」を開発したと発表した。高コストパフォーマンスと同時に、高いエネルギー変換効率と耐久性も実現した。
OPVやペロブスカイト太陽電池などのフィルム型太陽電池は、溶液を塗布して作製できるため大量生産が可能となる。しかも軽量で柔らかいことから、シリコン太陽電池に比べ設置できる場所の制約が少ないといった特長を持つ。エネルギー変換効率もシリコン太陽電池に匹敵するようなレベルまで改善されてきた。
特に、OPVは鉛のような重金属を含んでいないため、環境問題の点からも注目されている。ところが、OPVのエネルギー変換効率を向上させるため、発電材料は極めて複雑な化学構造となり、合成を行う工程数は15〜20ステップに増え、この工程数を上回るケースもあるという。さらに、反応条件や精錬方法によって特殊な設備が必要となり、コスト高の要因となっていた。
そこで研究グループが注目したのは、チアゾロチアゾールを有するポリマー「PTz3TE」である。この合成ルートについて、中間体の精製が簡単になるよう緻密な分子設計と合成設計を行った。この結果、p型半導体ポリマーを7ステップで合成することに成功した。これは従来の高効率半導体ポリマー開発に比べ半分のステップ数で実現したことになる。その上、各ステップにおいて「マイナス数十℃以下の低温反応」や「カラムクロマトグラフィーによる精錬」といったコスト高につながる工程を省くことにも成功した。
研究グループは、有機半導体の合成が簡便かどうかを定量的に評価する指標の1つである「SC(Synthetic Complexity)」に、低温反応を考慮した「mSC」を提唱した。この指標に基づき合成の簡便さを定量化した。この結果、従来の半導体ポリマーに比べ、PTz3TEは合成コストを約3分の1に抑えられることが分かった。
さらに、PTz3TEを用いてOPV素子を作製したところ、最大18%というエネルギー変換効率が得られたという。耐久性の評価試験では、65℃で2000時間以上保存しても、性能がほとんど低下しないことを確認した。
研究グループは今後、低コストで高効率の「n型有機半導体」についても開発していくことにしている。なお、今回開発した半導体ポリマーは、成膜工程でハロゲン系溶媒を用いるなど課題も残されており、これらの改善にも取り組んでいく。
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