宇都宮大学や東京大学、広島大学らによる共同研究グループは、EUV(極端紫外)露光装置の核となるEUV光源を高効率化するためのマルチレーザービーム照射法を提案、実験によりその効果を実証した。EUV変換効率は2ビーム照射で4.7%となり、1ビーム照射に比べ約2.8倍となった。
宇都宮大学と東京大学、九州大学、理化学研究所、米国パデュー大学、アイルランド国立大学ダブリン校および、広島大学の共同研究グループは2024年7月、EUV(極端紫外)露光装置の核となるEUV光源を高効率化するためのマルチレーザービーム照射法を提案、実験によりその効果を実証したと発表した。EUV変換効率は2ビーム照射で4.7%となり、1ビーム照射に比べ約2.8倍となった。
半導体の製造工程では、露光装置を用いてウエハーに回路パターンを転写している。特に、プロセスノードが3nm/2nmあるいはそれ以降の最先端半導体では、露光のためにEUV光が用いられる。半導体のさらなる性能向上には、EUV光源の出力を高める必要がある。ところが、出力を高めると消費電力が増大するという課題もあった。
EUV光源の消費電力を下げる方法として、駆動用レーザーに波長が約2μmの固体レーザーを採用することも提案されている。ところが、EUV変換効率は従来のCO2レーザーと同等だが、現状では従来に比べ十分な出力が得られていないという。
共同研究グループは今回、1ビーム当たりのエネルギーを増やすのではなく、1ビーム当たりのエネルギーを下げ、複数ビームを照射することでEUV光源の高効率化を実現した。実験では、真空容器内に設けたSn(スズ)金属の平板ターゲットに、パルス幅がナノ秒という固体レーザー(Nd:YAGレーザー)を集光照射してプラズマを生成し、EUV光のスペクトルやEUVエネルギー(EUV変換効率)、光源イメージ、高速イオンなどを調べた。
具体的には、外部トリガーで2台のレーザーを同期し、1ビーム照射(1パルス当たりのエネルギーは500mJ)の時は1台のみ用いた。レンズ位置を調整し、照射するビーム数によって集光サイズを変え、Snターゲット位置でのレーザー強度が2×1011W/cm2になるよう設定した。EUVエネルギーはEUVエネルギーメーターで測定した後、EUV変換効率を評価。また、EUV光源サイズはピンホールカメラで、高速イオンはファラデーカップでそれぞれ測定した。
実験結果から、2ビームに分割し(1パルス当たりのエネルギーは250mJ)、Snターゲットへの入射角を60度に設定して照射したところ、EUV変換効率は4.7%と大幅に改善した。1ビーム照射でのEUV変換効率は1.7%だった。
ただ、これらの現象について物理的な詳細は不明なことも多く、今後放射流体シミュレーションなどによる数値解析を行う予定としている。
今回の研究成果は、宇都宮大学学術院工学部基盤工学科の東口武史教授、森田大樹助教、地域創生科学研究科博士前期課程2年の杉浦使氏、地域創生科学研究科博士前期課程1年の矢澤隼斗氏、東京大学大学院工学系研究科原子力専攻の坂上和之准教授、九州大学大学院システム情報科学研究院電気システム工学部門の中村大輔准教授、理化学研究所光量子工学研究センターの高橋栄治チームリーダー、米国パデュー大学極端環境物質センターの砂原淳研究員、アイルランド国立大学ダブリン校のO’SULLIVAN Gerry名誉教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の難波愼一教授ら共同研究グループによるものだ。
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