京セラがハプティクス技術の研究を始めたのは、Appleのスマートフォン「iPhone 3G」が日本に初登場したのと同じ2008年。当初は携帯電話などを手掛ける通信事業部内での研究だった。フィーチャーフォン(ガラケー)の物理ボタンの操作に慣れているユーザーはスマホ操作に困難を感じると予想し、リアルな押し心地を再現する技術として着目したという。当初、使用材料は決まっていなかったが、開発の過程で圧電セラミック素子を用いる方法に優位性があると考え、自社のセラミック関連技術を利用する体制になった。
最終的には、搭載スペースの確保が難しいことや、京セラの携帯電話の特徴である頑丈さと両立しにくいことなどから、スマホへの搭載は断念。他の用途を探ることになった。その後、自動車の電装化に伴ってセンターインフォメーションディスプレイ(CID)の搭載が加速してきたことから、CIDへのハプティクス技術採用を目指したが、圧電素子のコストの高さがネックになり、ここでも採用には至らなかったという。
こうした経緯を踏まえて現在は、小型/軽量であることやフラットな面にボタン機能を持たせられることから、主にデザイン性を重視する高級民生機器などへの搭載を想定している。また、HAPTIVITYは触れるだけでは入力操作が行われず、軽く押し込む必要があるので、産業/医療機器の誤動作防止などにも利用できる。
既に製品採用例もある。シグマが2025年4月に発売したフルサイズミラーレスカメラ「Sigma BF」だ。センターボタン/再生ボタン/オプションボタンにHAPTIVITYが採用されている。
Sigma BFは継ぎ目のないアルミニウムのボディーなど、洗練されたデザインが特徴だ。シグマはSigma BFの開発にあたってボタン部分の高級感を高めたいと考え、HAPTIVITYに着目したという。HAPTIVITYを使ったボタンは、物理ボタンのように押すと沈み込む設計にしなくてよいので、デザインの自由度が高い。また、摩耗が起きないので押し心地も変化しない。
実際に触ってみると、「カチッ」というリアルな感覚があり、物理ボタンでないことは説明されなければ気付かないほどだと感じた。
HAPTIVITYを使ったボタンの押し心地は、周波数や電圧を変更することで調整できる。このような調整については京セラも顧客の相談に対応するという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.