自動車業界に再び半導体不足の懸念を呼んだ「Nexperia問題」に進展があった。オランダ政府が同社を管理下に置く措置の停止を決定したのだ。ただし、Nexperia本社はこの決定を歓迎する一方で、対立状態にある中国法人との関係に「変化はない」と説明している。
オランダ政府が2025年11月19日(オランダ時間)、Nexperiaを管理下に置く措置を停止すると発表した。これを受けて同社は、現在の状況に関する最新情報を公開した。
Nexperiaの半導体供給停止問題については下記記事などでまとめてきたが、オランダ政府が2025年9月、「深刻なガバナンス上の欠陥」を理由に「物品供給法」を発令してNexperiaの経営権を接収したことを発端としたもので、さらにその背景には米中間の経済摩擦があるとされる。このオランダ側の動きに対して、中国政府は中国で製造された同社チップの輸出を禁止。Nexperia本社と中国法人間での対立も生じていて、世界の自動車業界で半導体供給不足の懸念が高まり、一部では既に工場停止の影響なども出ていた。その後、米中間の協議を経て中国が条件付きで輸出制限を免除するなどの緩和の動きもあったが、依然として完全な解決には至っていない。
オランダ政府は2025年11月17日の週に代表団を中国に派遣し、協議を実施。そして同月19日、物品供給法に基づく命令を停止すること発表した。同政府は「ここ数日、中国当局と建設的な協議を重ねてきた。中国当局が欧州および世界各国への半導体供給確保のために既に講じている措置も高く評価している。これらの展開を踏まえ、欧州および国際的なパートナーと緊密に協議の上、命令停止という建設的な措置を講じる適切な時期であると判断した」などと説明している。
またオランダ政府は同日、この問題に関する最新の動向を説明する、Vincent Karremans経済大臣による議会宛ての書簡を公開。今回の命令について、現在一時的に解任されているNexperiaグループの元CEO、Zhang Xuezheng氏が、同社の製造アセットや資金および知見を、同氏が管理するNexperiaグループ外の外国企業に移転しようとする行動を取ったために必要だったと言及。今回の介入がなければ、元CEOの行動の結果として「Nexperiaの欧州での前工程生産が近い将来消滅していただろう。その結果、欧州におけるNexperiaの知識、専門知識、製造能力が失われ、オランダおよび欧州経済のレジリエンスが損なわれることになっていた」などと説明している。
Karremans氏は書簡の中で「私の命令は、CEOによる重要な事業プロセスのオランダおよび欧州からの移転を阻止し、供給の安全性がこの方法で脅かされるのを防ぐことを目的としていた。こうした公共の利益を長期的な観点も含め保護することは、依然として重要かつ喫緊の課題であり、その意義は変わっていない」と説明。そのうえで中国当局が欧州およびその他の地域に拠点を置く企業に、Nexperiaのチップの輸出を許可していること、また、Nexperiaグループが現在、命令の発令につながった行動を継続している兆候が見られないことなど、命令停止の決定に至った理由を挙げている。オランダ政府は今後も問題解決に向けた協議を継続していく方針だ。
Nexperiaは2025年11月19日、オランダ政府の決定を受けて最新情報を発表。今回の政府の決定について「サプライチェーンの安定化に向けたオランダと中国当局間の最近の建設的な対話を歓迎する」とコメント。その一方で「サプライチェーンの完全な回復には、Nexperia中国法人の積極的な協力が不可欠だと認識している」とも説明。2025年10月の裁判所による判決は引き続き有効でありXuezheng氏の職務停止は継続中であることや、中国法人は依然としてNexperia本社側の指示を無視している状況であることに言及している。
Nexperia本社側では、中国以外の欧州やアジア拠点では通常稼働を継続していて、中国工場を代替するサプライチェーンを構築し顧客への製品出荷を可能な限り継続できるように対応。専任チームが継続的に実行可能な解決策の特定と実施に取り組んでるといい、「完全なターンキーフローを備えた正常なサプライチェーンが回復するまで、必要な限りこれらの代替ソリューションを維持することを約束する」と説明している。さらに、これと並行して、他拠点での生産能力拡大を最優先事項として取り組んでいて、「2026年中に段階的に達成する見込みだ」と述べている。
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