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創刊前の20年間(1985年〜2005年)で最も驚いたこと:「高輝度青色発光ダイオード」(前編)福田昭のデバイス通信(502) EETimes Japan 20周年記念寄稿(その3)(2/4 ページ)

» 2025年09月17日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

光の3原色を発光ダイオード(LED)で作ることの意義

 一方、「光の3原色」は青色(B)、緑色(G)、赤色(R)とされており、これらの3原色を混ぜる(混色)ことによって白色を含めたほぼ全ての色を再現できるようになります。ただし、可視光の混色では黒色は作れません。可視光の世界では、黒色は「光の無い状態」を指します(「暗闇」と同義)。

 1985年当時の課題とは「明るい青色発光ダイオード(高輝度青色LED)が作れないこと」です。赤色LEDと緑色LEDは既に、それなりの明るさを達成していました。しかし青色LEDだけは、非常に暗いものしか作れませんでした。そして明るい青色LEDの製造は非常に困難で、20世紀中の実現は無理ではないかとすら、予想されていました。

 発光ダイオード(LED)の発光波長は、材料(半導体材料)のバンドギャップエネルギー(エネルギーバンドギャップとも表記)(Eg)でおおむね決まります。なお以降はEgをバンドギャップと表記します。バンドギャップは、エネルギーバンド(帯)理論では禁制帯(禁止帯)に相当しており、キャリアが存在できないエネルギー状態を意味します。禁制帯の幅がバンドギャップです。

 禁制帯の上には伝導帯、禁制帯の下には価電子帯が存在しています。ここで伝導帯に存在する電子が、エネルギーを失って価電子帯に落下すると、エネルギーの一部が光子に変わることがあります。逆(キャリアが正孔の場合は価電子帯から伝導帯に移動)も同様です。

 pn接合ダイオードでは伝導帯の電子と価電子帯の正孔が禁制帯に落下して再結合することでエネルギーを失い、その一部を光に変換することがあります。これが標準的な発光ダイオード(LED)の発光原理です。

 光子のエネルギーは、禁制帯の幅(バンドギャップ)が最大となります。バンドギャップEg(単位:eV)と発光波長(最短波長)λ(単位:nm)の間には、λ=1240/Egの関係があります(Egが大きいとλが小さい(波長が短い))。光の3原色は波長の長い側から「赤(R)」「緑(G)」「青(B)」の順に短くなるので、赤色や緑色などの可視光LEDよりも、青色LEDの材料はバンドギャップが広い(大きい)ことが分かります。

発光ダイオード(LED)の波長と材料のバンドギャップエネルギー

 そしてバンドギャップの広いLED材料(青色から紫色に相当)として1980年代前半には、窒化ケイ素(SiC)とセレン化亜鉛(ZnSe)が有力視されていました。窒化ガリウム(GaN)は1970年代前半に研究が活発になったものの、1970年代後半には研究人口が大きく減少しています。電気抵抗の低いp型半導体が製造できなかったこと、そもそも結晶の品質が劣悪で向上の兆しが見られないこと、などがその理由とされています。

 ただしSiCとZnSeの青色LED研究は1980年代に、それほど進展があった訳ではありません。SiCはpn接合が作れるものの良質ではない、間接遷移型であることから原理的に発光効率が低いという課題を抱えていました。ZnSeは発光素子に適する直接遷移型であるものの電気抵抗の低いp型半導体が作れない、格子整合する基板がない(このため結晶品質が低い)といった問題がありました。なお、GaNも直接遷移型です。

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