米国のスタートアップ企業であるEfficient Computerが、AI演算の消費電力を大幅に削減できる汎用プロセッサ「Electron E1」を開発した。フォンノイマン型アーキテクチャの“真の代替品”になると主張する。
米国のスタートアップ企業であるEfficient Computerは、一般的な低消費電力プロセッサよりも大幅に優れたエネルギー効率を実現する、従来のフォンノイマン型アーキテクチャの“真の代替品”とも呼ぶべき汎用プロセッサ「Electron E1」を開発したという。
Electron E1は、高度な信号処理とAI推論をデバイス上で直接実行できるように設計されている。同プロセッサは、同社が開発した独自の空間データフローアーキテクチャ「Efficient Fabric」を採用し、従来のフォンノイマン型システムに見られるメモリとコンピューティングコア間のデータ移動に伴う過剰なエネルギー消費を削減するという。
Efficient ComputerのCEOを務めるBrandon Lucia氏はEE Timesとのブリーフィングで、「フォンノイマン型アプローチから脱却しようとしたこれまでの試みは完全には実現していない。一時的な代替案が現れては消えていった」と語った。
同氏は、「多くの代替アーキテクチャには制約があり、その1つが、演算の汎用性を犠牲にしてしまうことだとEfficient Computerは指摘してきた。これは、本当に極めて重要なことだ」と述べている。
同社のFabricアーキテクチャにより、Electron E1はエネルギー消費を最小限に抑えながら汎用コードを実行できる。Lucia氏は「Electron E1はArm『Cortex-M33』や『Cortex-M85』コアなどを用いた従来のプロセッサと比較して100倍のエネルギー効率を実現できる」と述べている。
Electron E1は、128kBの超低消費電力キャッシュメモリ、3MBのSRAM、不揮発性ストレージ用の4MBのMRAMを搭載し、高電圧モードでは200MHzで21.6GOPS(Giga Operations per Second)、低電圧モードでは50MHzで5.4GOPSの演算性能を実現できる。
Lucia氏は「従来のフォンノイマン型アーキテクチャでは、メモリとプロセッシングユニット間でのデータ移動が必要で、非効率性が生じる。Fabricアーキテクチャは、このデータ移動を減らすことで、演算の実行方法を根本的に見直した」と述べている。
同氏は「Efficient Computerのアーキテクチャは、タイル状に配置された演算素子グリッド全体に演算を空間的にマッピングすることでこれを実現しており、各素子は入力が利用可能になった場合にのみアクティブになる」と説明している。これは、従来のCPUパイプラインで主流となっている、連続的な命令サイクルおよび間接的なデータ移動とは対照的である。
「汎用プロセッサがAIにとって重要なのは、物理世界ではAIは単なるアルゴリズムよりもはるかに大きな集合体で、センサーフュージョンやDSP圧縮、暗号化、組み込みトランスフォーマーといった、AIを支える機能を備えているからだ。アーキテクチャが1種類の計算に特化していると、他の機能を実行できないことになる」(Lucia氏)
同氏は「Electron E1はアプリケーションの実行に必要なあらゆるコードをサポートするように設計されており、エッジコンピューティング、組み込みシステム、AIアプリケーションに最適である。開発者は既存のコードをそのまま利用できる」と付け加えた。
Electron E1は、ドローンや産業用センサーなど、電力供給が制限された環境で長いバッテリー寿命および効率的な性能が必要なデバイスに、特に適しているという。EfficientはBrightAIと協力し、実用化を進めている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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