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「データの死蔵に耐えられないエンジニア」がたどり着いたMASの沼リタイア直前エンジニアの社会人大学漂流記(4-2)(1/4 ページ)

今回は「MATSim」の解説をいったんお休みします(なぜなら恐ろしい分量になり、編集者が青ざめるから)。代わりに、私がなぜ「MAS(マルチエージェントシミュレーション)」にたどり着いたのか、そして私にとってMASが持つ可能性とは何なのかをお話したいと思います。

» 2026年05月01日 09時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]
MASイメージ図

3年間の休載を経て戻ってきました。休載していた理由は、私はリタイア(定年退職)間際だったにもかかわらず、「MAS(マルチエージェントシミュレーション)」を研究すべく、社会人のまま大学院博士課程に突っ込んでいったからです。なぜ“そんなこと”になったのか――。そして私をそこまでさせた「MAS」とは何なのか。社会人大学院生の実態を赤裸々に語りつつ、MASを技術的に深掘りしていきます。
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⇒前編「入学した瞬間終わったわ――「講義が英語」なんて一言も聞いてない!

 さて、ここから後半になります。本来であればMATSim(本連載の対象であるマルチエージェントシミュレーション[MAS]のツール)の解説に入るところですが、その前に、私とMAS(マルチエージェントシミュレーション)に関わる話を少しさせてください。ここから先は、何かの分野全体を代表する議論ではありません。あくまで、私自身が現場に関わる中で感じてきた、かなり偏った問題意識です。言ってしまえば「私の思い込み」です。ただ、私はその「思い込み」を、どうしても捨てきれないのです。

第1の背景:「調査に基づいて理解する」という枠組み

一般的な分析結果の整理 [クリックで拡大]

 この図は、よくある分析の流れを示しています。調査をして、整理して、傾向を見つけて、「分かりました」とまとめる。これは極めて重要な営みですし、これがなければ何も始まりません。

 ただ、ここで私は、いつも一つだけ引っ掛かります。

 「で、その先はどうなるのか?」という疑問です。

 もちろん、その話は本来の研究のスコープ外であるとするのは正しい態度だと思いますし、軽々しく未来を語るべきではない、というのも理解しています。ただ、私個人としては、「分かった」で止まってしまうことに、少し物足りなさを感じているのです――まあ、これは完全に私の性格の問題だろうなぁ、と分かってはいるのですが。

第2の背景:データは既に十分に蓄積されている

 一方で、別の面を見てみましょう。

データは既に十分に蓄積されている [クリックで拡大]

 上の図は、さまざまな場所に存在するデータの例を並べたものです。公開情報やこれまでの業務経験などをもとに、データが蓄積されている地域の一例を示しています(私が関わった案件も一部含まれています)。

 ここで言いたいことは一つだけです。「データは、既にかなり存在している」ということです。しかも、それぞれのデータは丁寧に収集されており、一定の価値を持つものです。

 ただし、それらは基本的に、

  • 個別に収集され
  • 個別に利用され
  • 個別に完結している

ように見えます。この点が、私は気になっているのです。

第3の背景:素材はそろっている(ように見える)

素材はそろっている(ように見える) [クリックで拡大]

 この図では、データを大きく3つに分けて示しています。

  • アンケートやインタビューのような「人の意識・行動に関する情報」
  • 統計データのような「集計された定量情報」
  • 地図や移動手段のような「空間や移動に関する情報」

 かなり乱暴な整理ではありますが、「人」「数値」「空間」という3つの側面からデータがそろっている、と見ることもできます。もちろん、この分類自体が単純化しすぎていることは承知していますし、これで全てを説明できるわけではありません。

 ただ、少なくとも私には、「分析に必要な情報は、ある程度そろっている」ように見えるのです。

 ここで言いたいのは「足りないものがある」という話ではなく、むしろ逆で、「これだけそろっているのに、それぞれが個別に使われて完結してしまっている」という点が引っ掛かるということです。

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