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MATSim実践編――自己中なエージェント1万人を「通勤」させてみるリタイア直前エンジニアの社会人大学漂流記(6-2)(5/7 ページ)

» 2026年08月20日 11時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

エージェントの「行動パターン」を定義する

 次に、

<module name=" strategy">
	(中略)
</module>

では、「エージェントが、次のiterationで、どのように行動計画(plan)を変更するか」を定義しています。

 つまり、MATSimの「学習ルール」です。

 この設定では、エージェントは、

  • 80%は保守的
  • 10%は経路変更
  • 10%は時間変更

を行います。かなり“人間っぽい”設定です。

1. maxAgentPlanMemorySize

<param name="maxAgentPlanMemorySize" value="5" />

 これは、「過去のplanを最大5個記憶する」という意味です。

例えば、

  • 8:00出発
  • 7:45出発
  • 別ルート
  • 電車利用
  • 徒歩増加

などを保持できます。

 MATSimのエージェントは、「昔の成功体験」を記憶しています。

2. BestScore (weight=0.8)

<param name="strategyName" value="BestScore"/>
<param name="weight" value="0.8"/>

 これは、「過去のplanの中で、最もscoreが高かったものを使う」戦略です。

 しかもweight=0.8とは、80%の確率で“無難な行動”を選ぶ、ということになります。

 例えば、

plan 内容 score
A 8:00出発 -120
B 7:45出発 -80
C 別ルート -90

なら、「Bを採用」します。

 つまり、「以前マシだった行動を繰り返す」という、かなり人間っぽい動きです。

3. ReRoute (weight=0.1)

<param name="strategyName" value="ReRoute"/>
<param name="weight" value="0.1"/>

 これは、「経路だけ変える」戦略です。

 つまり、

  • 出発時刻はそのまま
  • 活動もそのまま
  • ただし別の道路を試す

です。

 例えば、

  • 昨日:国道を使用 → 渋滞
  • 今日:裏道を試す

みたいなことをやる。ただし10%の確率でやります。つまり、「たまに冒険する」程度です

4. TimeAllocationMutator (weight=0.1)

<param name="strategyName" value="TimeAllocationMutator"/>

 これは、「活動時間や出発時刻を少し変更する」戦略です。

例えば、

  • 08:00出発→ 07:50へ変更
  • shop 30分→ 20分へ変更
  • work終了→ 少し延長

などを試す。

 つまり、「生活時間を少しずらす」です。

 これは非常に重要です。なぜなら、MATSimは、「交通だけ」ではなく、「生活スケジュール」そのものを最適化対象にしているからです。

5. この3つを合わせると

 エージェントは、

  • 80%は、前にうまくいった行動を繰り返す
  • 10%は、別ルートを試す
  • 10%は、出発時刻や滞在時間を変える

ことになります。

6. これは何を意味しているのか

 これ、かなり人間っぽいです。

 人間って、

  • 基本は昨日と同じ行動
  • たまに別ルート
  • たまに早起き
  • たまに帰宅時間変更

 つまりMATSimは、「超知能AI」を作っているわけではなく、むしろ、「昨日より少しマシを探す、保守的な人間」を作っています。

7. 重要なポイント

この設定では、

  • 80%が保守
  • 20%が探索

です。

 つまり、「完全最適化」ではなく、「少しずつ試す」構造になっています。

 これは、

  • 焼きなまし法
  • 遺伝的アルゴリズム
  • 強化学習

にも少し似ていますが、MATSimはもっと泥臭いのです。各エージェントが、「まあ、昨日よりマシならいいか」を、永遠に繰り返しているだけです。

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