理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、湿った環境や水中でも安定して動作する「透明導電ナノ膜」を開発した。雨水や海水、体液などへの耐久性に優れていて、ウェアラブルデバイスや透明な脳表面電極などへの応用に期待する。
理化学研究所(理研)開拓研究所染谷薄膜素子研究室のスン・ルル研究員、染谷隆夫主任研究員、福田憲二郎客員研究員らによる国際共同研究グループは2026年8月、湿った環境や水中でも安定して動作する「透明導電ナノ膜」を開発したと発表した。雨水や海水、体液などへの耐久性に優れていて、ウェアラブルデバイスや透明な脳表面電極などへの応用に期待する。
研究グループは今回、金属ナノワイヤー相と高分子(ポリマー)相からなる「二相パーコレーションネットワーク(BIPIN)」を作製した。ポリマー相は金属ナノワイヤーの隙間に入り込んで金属ナノワイヤーを包み込む。これによって金属ネットワークを保ちつつ、水やイオンの侵入を防ぐBIPIN膜を形成できた。
BIPIN膜について、その耐水性を評価し生体応用を検証した。BIPIN膜は厚み約200nmで水接触角94.6度という高い撥水性を実現した。雨水や海水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液に600分の間浸した後でも、電気抵抗の増分は15.8±5.1%に抑えられていて、耐水性に優れていることが分かった。しかも、シート抵抗を約20Ω/スクエアに保ちつつ、可視光領域において光透過率は90%以上になった。
BIPINを用いて生体信号を計測した。人間の手首の手のひら側にBIPIN皮膚電極を直接成膜し、筋電図を計測しながら近赤外血管イメージングを行うことに成功した。また、BIPINを用いて透明な脳表面電極を作製した。電極が9チャネルで各電極のサイズは300×300μm、全体の厚みは5.5μmである。これをマウス大脳皮質上に密着させて生体信号を計測したところ、皮質脳波を安定して記録できた。10日間の経時計測でも高い信号品質が得られたという。
皮膚への密着性や耐水性を調べるため、水中で手首の角度を変えながら筋電図を計測する実験も行った。この結果、筋肉が動くような条件下でも血管像と電気信号の両方を安定して取得できた。さらに、2光子励起顕微鏡による脳血管イメージングでは、電極下の血管像も観察できた。
金属ナノワイヤー表面と基板の間にポリマー相が入り込むことで、生体との密着性が高まったことや、フッ素含有イオノマーによって水や塩化物イオンなどの侵入を抑えたことが、安定した動作につながっているとみている。
細胞毒性試験も行った。BIPIN上で培養した細胞の生存率は標準培地に対し92.77±1.78%であった。また、100Hzにおける皮膚−BIPIN界面の電気抵抗は、市販のAg/AgCl電極やAgナノワイヤー/PDMS電極、PVAゲル電極などに比べ低いことが分かった。
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