AURIX RC1は、CPUコアにMIPSのIP(Intellectual Property)を採用する。Boehm氏はInfineonとMIPSが以前から協業関係にあるとしたうえで「われわれにとって重要だったのは強力な開発パートナーを持つことだった」と強調。MIPSが幅広い性能クラスのRISC-Vコアを提供できることに加え、市場投入までの期間も重要な選定要素になったと語った。
MIPSは、セキュリティ機能などを担う小型で電力効率の高いコアから、リアルタイム制御用コア、複雑なOSを実行できる64ビットコアまで、幅広いRISC-Vコア群を構築している。Boehm氏は、こうした拡張性に加え、幅広い性能クラスで共通の命令セットを利用できることもRISC-Vの利点として挙げた。
Boehm氏はまた「RISC-V市場そのものに大きな可能性があると考えている」とも言及。「現在、多くのRISC-Vベンダーが、継続的にイノベーションを生み出している。市場にはさまざまなクラスに対応するRISC-V企業が多数あり、利用者である当社にとって、幅広い選択肢にアクセスできる価値がある。競争によって革新と技術進歩が促される点も重要だ」と語っていた。
ただ、RISC-Vの命令セットが標準化されていても、車載向けのリアルタイム処理に必要な一部の拡張機能については、共通仕様の整備が課題になっていた。そこでInfineonは、QualcommやNXP Semiconductors、STMicroelectronicsなどが参加する合弁会社Quintaurisを通じて、車載向けRISC-Vの標準化を推進している。
Boehm氏は、こうした協業の成果としてリアルタイムプロファイルが策定され、AURIX RC1にも実装されていると説明。「こうした部分を差別化要因にすべきだとは考えていない。ソフトウェア企業やツール企業が投資できるエコシステムを築くには、共通規格が必要だ」と強調していた。
InfineonはRISC-V Internationalのプレミアムメンバーであり、Quintaurisの創設メンバーでもある。ソフトウェアや開発ツール、ミドルウェア、仮想化技術などの企業と協力し、車載RISC-Vの相互運用性向上やエコシステムの拡充を進めている。
AURIX RC1では、最大12個の32ビットCPUコア、エッジAI向けの改良型Parallel Processing Unit(PPU)、最大40MBの内蔵メモリなどを備える製品を展開する。さらに、64ビットのマイクロプロセッサ(MPU)機能を追加した製品も投入する計画だ。
Boehm氏によると、32ビットのリアルタイム制御用コアは最大1GHzで動作。ロックステップ構成による機能安全への対応も可能で、従来のAURIXが強みとしてきたリアルタイム制御の演算性能を高めるという。一方、データ処理やクラウドとの接続など、ソフトウェアへの依存度が高い処理には、リアルタイム制御とは異なる演算環境が求められる。Boehm氏は、こうした用途ではLinuxなどのPOSIX系OSを利用する必要があると説明。そこでAURIX RC1では、32ビットのリアルタイム制御用コアに加え、64ビットコア搭載の製品も用意したとしている。
Boehm氏は「高性能なリアルタイム制御用サブシステムと、Linuxなどを実行できるPOSIX系のサブシステムを組み合わせる」と説明。リアルタイム制御と汎用的な演算処理を1つのデバイスに統合することで、車載コンピュータの機能集約を進める狙いだ。
こうした方向性について、Boehm氏は「私は、MCUとMPUという区別は従来のような形ではもはや存在しないと考えている」と語った。
同氏は「現在むしろ、高性能SoC(System on Chip)を使用するカテゴリーとそれ以外を区別する必要がある」と説明。具体的には、自動運転向けや、複雑なコックピットシステムでグラフィックス処理を担う高性能コンピュータと、MCUとMPUの機能を組み合わせた高性能MCUに大別されるとした。
AURIX RC1は、この高性能MCUに位置付けられる。リアルタイム制御向けの演算性能に加え、ネットワーク機能も統合。最大5Gビット/秒のEthernet通信や、複数ポートを備えるEthernetスイッチに対応し、高帯域幅のデータ転送を処理できる。さらに、専用のAIアクセラレーターやセキュリティサブシステムも備える。「われわれはAURIX RC1が車載コンピュータの非常に中心的な構成要素になると考えている」と強調した。
AURIX RC1ファミリーの適用領域を示した車両アーキテクチャの概念図。車両の各種機能に幅広く対応することで、車載システムの中心的な構成要素になる[クリックで拡大] 出所:Infineon TechnologiesBoehm氏は、車載コンピュータへの機能集約の例として、BMWの次世代EV「Neue Klasse(ノイエ・クラッセ)」を挙げた。同車ではInfineonの既存マイコン「AURIX TC4x」が採用され、高い処理性能によって車両運動制御全体を実行しているという。今後はこうしたリアルタイム制御機能の集約がさらに進む見通しだ。その際には、高性能なリアルタイム処理に加え、異なるOSを利用した演算処理を組み合わせたリアルタイムコンピューティングの必要性がより高まるとした。
AURIX RC1では、高速なネットワーク処理やAIアクセラレーター、セキュリティ機能なども統合する。Boehm氏によると、最大5Gビット/秒のEthernet通信に対応し、複数ポートを備えるEthernetスイッチも内蔵するという。
通信規格ではCAN XL、10BASE-T1S、マルチギガビットEthernetなどをサポートする。一部の製品には、Infineonの「BRIGHTLANE」Ethernetスイッチ技術や、ハードウェアによるデータルーティング機能を統合する。これにより、外付け部品の削減やアプリケーションプロセッサの処理負荷軽減を図るとしている。
機能安全では、車載機能安全規格ISO 26262の最高水準であるASIL Dまでの用途に対応する設計を採用する。サイバーセキュリティではISO/SAE 21434や欧州サイバーレジリエンス法(CRA)などにも対応。物理的な攻撃に対する保護機構や、暗号方式を柔軟に変更できる仕組みを備える。将来的な耐量子計算機暗号(PQC)の要件にも対応する方針だ。
また、InfineonはAURIX RC1向けに、電源管理IC「OPTIREG」の製品群も提供する。用途に応じた電源管理機能を組み合わせることで、プラットフォーム全体の電力効率の最適化を図る。
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