今回のテーマは「おうちでAI」です。といっても、これは「AIを自宅に実装すること」ではなく、「週末自宅データ分析およびシミュレーション」に特化したお話になります。さらに、そうなると避けては通れない「ビッグデータ」についても考えてみたいと思います。そして、本文をお読みいただく前に皆さんにも少し考えていただきたいのです。「ビッグデータって、いったいどこにあるのだと思いますか?」
今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして”AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような”知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー
スタジオジブリの映画「風立ちぬ」の中で、飛行機の設計をするために、エンジニアたちが、「計算尺」を使っているシーンが登場します。
計算尺とは、稼働式の2つの定規を組み合わせて、目盛りを合わすことで、計算を行うものです。
私は高校に通っていた頃、選択教科の「計算尺クラブ」に入っていました。
―― なんで、私、そんなクラブに所属していたんだろう?
ちょっと調べてみたのですが、その当時、電卓はもう、それほど高価なものではなく、普通に使われていました。私が大学に入学する頃には、BASIC言語が使える関数電卓があったくらいです ―― が、まあ、それはさておき。
計算尺も、ソロバンと同様に、練習問題集(ドリル)というのがありましてですね、それが、なんというか、「誤差付き」なんですよ。確か、解答欄の記載はこんな感じだったかと思います。
“4.67〜4.84×108”
この範囲の解答であれば、この計算尺による計算結果は「正解」になったということです*1)。
*1)計算尺ではケタ数の計算はできなかったので、ケタ計算だけは別紙で計算しておく、などの手間が必要でした。
このような誤差を認容する計算手段(計算尺)で、航空力学の最先端技術の塊である戦闘機(いわゆる、“零(ゼロ)戦”など)が設計されていたことは、本当に驚くべきことです。
ちなみに、あの東京タワーも、内藤多仲博士率いるチームが3カ月かけて、計算尺で構造の力学の計算をしていたそうです。
さて、コンピュータの影も形もなかった時代を経て、国家でも企業でない私たち個人に、潤沢な計算処理手が、PCやスマホという形で、掌(てのひら)に落ちてきました。
以前にも申し上げましたが ―― 例えば、ボーカロイドの映像や音声を作り出す計算リソースの消費量は、当時、私が在学していた大学の大型計算機センターの全能力をはるかに超えています。
しかし、その潤沢な計算リソースの使い道が「YouTube」や「スーパーマリオ」や「初音ミク*2」」……???
*2)関連記事:初音ミクを生んだ“革命的”技術を徹底解剖!ミクミクダンス、音声、作曲…(Business Journal)
―― なんか、違う。
そもそも、私たちは、たった40年くらいの間に人類が誕生して以来、経験したこともないような脅威の計算リソースを手に入れたというのに、なぜ、私たちは全然「幸せ」になっていないのだろう?
以前、私は、1980年代のスーパーコンピュータと、5000円で昨年(=2016年)購入したボードコンピュータの性能比較をして、計算能力だけでも3千倍〜60万倍も向上していることを示しました(該当記事)。
単純な計算であれば、私たちの1日8時間の労働時間は10秒くらい(8時間÷3000)になっていても良さそうなのですが ―― そこまで言わないまでにしても ―― 1日4時間労働くらいの日常は実現してほしかった。
むしろ、コンピュータによる計算能力の向上は、私たちを苦しめる方向のみに働いている、としか思えません。
どうせ「苦しめる」のなら、AIが政府を乗っ取り、外交を進め、戦争を勝手に始め、人類を滅亡させてしまう、くらいのことをやってくれても良さそうなものですが ―― 現在のAI技術では、この境地には遠く及びません(参考記事)。
計算尺の時代に生きた人は、コンピュータによって管理された世界によって、人類を幸せにするユートピア(あるいは人類を不幸にするディストピア)がくると信じていたと思うのです。
だから ――
もしも、私が、タイムマシンで、計算尺しかなかった時代にいって、『潤沢なコンピュータリソースの未来の成果物は、これです!』といって、「初音ミク」を紹介したら、
―― 絶対に叱られる
と思う。
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