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笑う人工知能 〜あなたは記事に踊らされている〜Over the AI ――AIの向こう側に(3)(4/8 ページ)

» 2016年09月28日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「コンピュータの性能が足りない」はもう通用しない

 さて、話は変わりますが、私は、自宅で自作のホームセキュリティシステムを運用しています(連載「江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る」)。

 今回、ホームセキュリティサーバとして使っていたPCの電気代を計算したところ、結構すごい値段になっていたので、先月から、組み込みのボードコンピュータでの運用の検討を始めています。

ラズパイ3B

 そこで出会ったのが、名刺サイズの小型コンピュータ「ラズベリーパイ (Raspberry Pi 3B 64bit」です。

 まず、消費電力はもちろん、64ビットマシンを5000円で購入できることにも驚いたし、提供されるGUIの環境や性能にも驚かされました。

 はっきり言って、今、サーバとして使っているPCより性能がいい(ジャンク屋で拾ってきたPCですけどね)。

 前回のコラムでご紹介した通り、人工知能研究というのは、基本的には「希望と絶望の相転移」を繰り返してきていますが、「希望」「絶望」のいずれの状態にあっても、最も高い頻度で使われてきた言い訳が、「コンピュータの性能が足りない」です。

 CPU性能が……、メインメモリが……、記憶容量が……、あと100倍ありさえすれば ――。

 自分たちの望む人工知能を実現できない理由を、「現在」のコンピュータリソースの責任にして、その課題を「未来」に放り投げて逃げる。これが、これまでの人工知能研究者たちの「言い訳」の常とう手段でした。

 もっとも、この「言い訳」は、"人工知能技術"に限らず、ありとあらゆるコンピュータに関する研究で使い回しされてきたものなので(もちろん、私も日常的に使いまくってきました)、人工知能研究者だけを責めるようなことを言うのは酷なのかもしれません。

 私は今、30年前、1985年に発刊された「人工知能への挑戦」(フランク・ローズ著 ダイヤモンド社)という本を読んでいます。

 ちょうど第1次ブームの「自然言語処理」と第2次ブームの「エキスパートシステム」の過渡期の、米国の大学(MIT、バークレー、スタンフォードなど)での研究について紹介されています。

 この本の中には、人工知能研究で使用された、スーパーミニコンピュータ「VAX11/780」についての詳しいスペックが登場します。

 VAX11/780は、1980年ごろ、当時のお金で50万米ドル、今のお金に換算して1億2千万円のマシンで、1秒間にざっくり50万回の命令を実行できました。メインメモリは5Mバイト(単位に注意)、当時としては「バケモノ」のようなスペックのコンピュータでした。

 一方、今回(2016年9月)、私がAmazonで5000円で購入したRaspberry Pi 3B(以下、ラズパイ3Bと言う)は、ざっくり1秒間に1.6億回(推定)の命令を実行できます。メインメモリは1Gバイトです。

VAXとラズパイの比較

以下が、スペックの比較表になります。

VAXとラズパイのスペックの比較

 ―― うん、たかだか5000円のボードコンピュータでさえ、1980年のスーパーコンピュータの性能の100倍とかいうオーダー、軽く超えている――

 ボードコンピュータですら、この性能なのです。普通のPCや、データセンターのコンピュータであれば、さらに2桁以上の性能は出せるハズです。

イラスト

 なにせ、今や、コンピュータリソースが潤沢過ぎて、1台のPCの中に複数PCを作り出す「仮想化技術」で、1台のPCサーバの中で100台の仮想PCを動かせるようになっています。

 また、たった1台のPCで、歌って踊れるアイドル(例えば、ボーカロイド「初音ミク」)を作り出すことだって可能となっています(参考記事)。

 「初音ミク」の映像や音声を作り出すコンピュータリソースは、私が在学していた当時の大学にあった大型計算機センターの全能力を軽く越えているでしょう。

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