前回で最終回を迎えた「Over the AI」ですが、番外編として、私がどうしても、どうしても、書きたかったコラムをお届けすることにしました。SFやアニメに登場するAI(人工知能)の実現性です。今回は、「シュタインズ・ゲート」や「BEATLESS」に登場するAIを取り上げ、エンジニアとして、それらの実現性を本気で検証してみました。
今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして”AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような”知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー
ある日、この連載のコラムの内容について、嫁さんと話をしていた時のことです。
江端:「私と完全に見分けのつかない身体を持ち、私とまったく同じ言動をして、同じ考え方をするアンドロイドがいたとします」
嫁さん:「うん」
江端:「ある日、オリジナルの私と私のアンドロイドがすり替えられて、一緒に生活することになり、全く問題なく日常生活を送っているとします」
嫁さん:「うん」
江端:「ただし、私のアンドロイドには心がありません。いかなる感情も持ち合わせていません ―― オリジナルの私の膨大なデータとロジックをベースとして、コンピュータの制御によって『そこに、心(感情)があるように振る舞う』ようにコントロールされているだけです」
嫁さん:「うん」
江端:「では、問題です。この私のアンドロイドは、『私』でしょうか?」
嫁さんは、会話の流れを止めることなく言いました。
嫁さん:「『私』でしょう。それが本物であるかどうかは、それを判断する手段がない以上、どうしようもないのだから」
江端:「では、『それを判断できる、特殊な計測装置がある』という仮定を置いてみたらどうかな」
嫁さん:「あまり意味ないかな。日常生活の中で『オリジナルのパパ』を『アンドロイドのパパ』と疑うことがなければ、その『特殊な計測装置』を使ってみようと考える"きっかけ"がないから」
嫁さんのこの答えは、私の考えと全く同じでした(参考:著者のブログ)。長年、連れ添っていると、お互いの考え方が、お互いに"侵食"……ではなく、"共有"とか"融合"とかされていくのかもしれません。
江端:「では、さらに『その特殊な計測装置を使って、アンドロイドである』と確認されたら、どうする?」
この時、嫁さんは、ちょっとだけ会話の流れを止めたように思えました。
嫁さん:「本物と完全一致のアンドロイドは、そのまま本物としておいて、そのことは忘れてしまっていいと思う」
江端:「はい?」
嫁さん:「誰かから『どこかで、別の本物のパパがいる』と教えられたとしても、『本物のパパ探しの旅に出る』ことはないだろうと思う」
江端:「いやいやいや、本物のパパ(私)は、どっかの機関に拉致されて、監禁・拷問されていて、最悪の場合、殺されているかもしれないんだよ」
嫁さん:「他の人のことは分からないけど、この質問で登場する人物は"パパ"だからね。パパなら自力で脱出できるよ。それに、もし、殺されてしまっているなら、アンドロイドの方にがんばって働いていてもらわないと」
江端:「……」
いつの間にか、私の嫁さんのロジックは、私の予想をはるかに超えた“向こう側”に行ってしまったようです。
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