「ボードの電源品質が危ない」。ボード(部品を搭載するプリント配線基板)の設計に携わる技術者が危機感を募らせている。ハイエンド・コンピュータでも、民生機器でも、産業機器でも、最近になって、ボード上に理想的な電源/グラウンド(接地)・プレーンを確保することが格段に難しくなっているからだ。
理想的には凪(な)いだ水面のごとく一定電位であるはずの電源とグラウンドに雑音が重畳し、電位が波打つ。この結果、大きな放射電磁雑音(EMI)が発生したり、ボードに搭載した半導体チップ(LSI)が動作不良に陥ったりする危険性がある。これでは機器を製品化できない。
たとえこの課題を乗り越えたとしても、電源/グラウンド(電源系)で生じた雑音が画像信号やオーディオ信号に紛れ込んでいる場合もある。こうした雑音は、エンド・ユーザーに知覚されやすい。対策を打たなければ、機器の価値が損なわれてしまう。
電源系の雑音に起因するこうした問題を解決するためには、電源品質の確保、いわゆる「パワー・インテグリティ」が極めて重要だ。もちろん、ボード設計におけるパワー・インテグリティへの取り組みは、以前から連綿と続いてきた。技術の蓄積もある。ところが近年になって、従来の技術で太刀打ちすることが、にわかに難しくなってきたのである。パワー・インテグリティの達成を困難にするさまざまな要因が一挙に押し寄せてきたからだ。
ただし、こうした波に翻弄(ほんろう)されているばかりではない。パワー・インテグリティに向けた新たな取り組みが進行中だ。第1部ではまず、ボードにおけるパワー・インテグリティの問題が顕在化した背景について解説する。次に、問題の解決に向けて進化を始めた対策部品を紹介する。さらに、対策部品を効果的に使いこなし、パワー・インテグリティを確実に達成するための指針を目指すEDAツールの動向を伝える。
第2部では、通常はトレードオフの関係にある電源品質と製造コストを最適化する技術について解説する。
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