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新型のリチウム空気二次電池、炭素正極1g当たりの容量が4000mAhエネルギー技術 二次電池

コバルト酸リチウムを用いた通常の二次電池に比べてエネルギー密度が10倍と高い。通常の10倍の寿命を目指す。

» 2009年06月08日 11時00分 公開
[ITmedia]

 スコットランドのUniversity of St Andrewsの研究者は、リチウムイオン二次電池の正極であるLiCoO2(コバルト酸リチウム)を多孔質炭素に置き換えたリチウム空気電池のプロトタイプを披露した。同研究チームによれば、この二次電池は現在使われている二次電池と比べて最大10倍のエネルギを充電できるという(図1)。

 スコットランドのUniversity of Strathclydeと英国University of Newcastleの科学者が参加する同プロジェクトは4年計画で進められており、現在2年が経過した段階だ。同プロジェクトは、英EPSRC(Engineering and Physical Sciences Research Council)から150万ポンドもの多額の資金提供を受けて実施されている。同研究チームの研究者は、「この技術を適用することで、電池寿命をLiCoO2(コバルト酸リチウム)を用いたリチウムイオン二次電池の8倍に延ばすことに成功した。今後は、5〜10倍長持ちする二次電池の実用化を目指す」と述べた。

ALT 図1 STAIR電池の試作品。出典:EPSRC

 また、今回開発した電池は、「風力や太陽光などの自然エネルギと組み合わせることで一定の電力を生み出すことができる」(同チームの科学者)という。

 同プロジェクトの主任研究員を務めるUniversity of St AndrewsのChemistry Departmentで教授を務めるPeter Bruce氏は、「今回開発したリチウム空気電池は、放電中も空気中の酸素を利用して充電する部材を加えることで容量を高めた。既存のリチウムイオン二次電池は今後、このような構成に置き換えられていくだろう。今回の技術を適用することで、同サイズの電池でより多くの容量を得られ、同じ容量であれば電池を小型化できる」と説明する。

 空気に触れている正極側から取り込まれた酸素は、放電時に正極の多孔質炭素内で反応する(図2)。Bruce教授は、「今回の電池は、正極を製造しやすいだけでなく、炭素を利用することで現在使われている材料より安価に電池を製造できる」と主張する。

ALT 図2 放電時の動作 左側が金属Liからなる負極、右側が多孔質炭素と触媒からなる正極。図中の記号は、Li2O2(過酸化リチウム、オレンジ)、触媒(赤紫)、炭素(青紫)、O2(酸素、緑)、Li+(リチウムイオン、赤)。出典:University of St Andrews

 同研究チームはまず、炭素1g当たり1000mAhという密度を達成したプロトタイプを作製した。さらに最近の研究では、最大4000mAhを達成したという。この2つのプロトタイプは設計がまったく異なるが、後者は携帯電話機などに標準で採用されている正極にLiCoO2を用いるリチウムイオン二次電池と比べて8倍の容量を実現したという。

 STAIR(St Andrews Air)電池と呼ばれるこの電池は、従来の充電式電池よりも安価になる見込みだ。

 同プロジェクトは、炭素材と空気を繰り返し反応させることができ、これが充電と放電のサイクルに耐えるというUniversity of St Andrewsにおける発見を基に進められてきた。

 STAIR電池の商用化には、少なくとも5年かかると見られる。同プロジェクトはまず、携帯電話機やMP3プレーヤーなどへの搭載に向け、STAIR電池の開発を進めるという。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】


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