高品位(HD)映像に向けた無線伝送方式である「WHDI(Wireless Home Digital Interface)」に向けた無線チップの設計・開発を手掛けるイスラエルAMIMON社は、同社にとって第2世代となるベースバンド処理プロセッサ「AMN2120/AMN2220」を発売した。
高品位(HD)映像に向けた無線伝送方式である「WHDI(Wireless Home Digital Interface)」に向けた無線チップの設計・開発を手掛けるイスラエルAMIMON社は、同社にとって第2世代となるベースバンド処理プロセッサ「AMN2120/AMN2220」を発売した。5GHz帯の40MHz幅を使って最大3Gビット/秒のデータ伝送速度を得られることが特徴だ。RFフロントエンドIC「AMN3110/AMN3210」と組み合わせて使う。
HD映像を無線伝送する方式には、5GHz帯を利用するWHDIのほかに60GHz帯を使う方式もあり、基本的には競合関係にある。同社のChairman & CEOを務めるYoav Nissan-Cohen氏は、「当社の無線チップのこれまでの採用状況や、現在採用を検討してもらっている状況を考慮すると、市場の雰囲気はこちらに傾いていることを強く感じる」と語る。同氏に、第2世代品の特徴や今後の開発動向を聞いた。
EE Times Japan(EETJ) まず、第1世代品「AMN2110/AMN2210」のこれまでの採用事例を教えてほしい。
Nissan-Cohen氏 第1世代は市場に広く受け入れられた。我々は非常に幸運だと感じている。民生分野を始め、医療分野や業務用カメラ市場に採用事例がある。
民生分野では、複数の機器メーカーの薄型テレビに組み込まれた。外付けの無線アダプタではなく、テレビに内蔵された唯一の方式である。テレビのほかに、プロジェクタにも採用された。医療分野については、内視鏡で撮影した映像を伝送する用途で使われている。内視鏡で撮影した映像を送る際には、当然のことながら、映像品質が高いことや、映像を安定して送れること、伝送遅延が低いことが強く求められる。要求仕様の厳しい医療機器に採用された意義は大きい。業務用カメラではこれまで、映像を送る際にケーブルを使ってきたものの、これは使い勝手の点で大きな問題だった。低遅延という要求を満たす無線伝送方式がこれまで無かったため、無線化が進んでこなかったと考えている。
さまざまな分野の企業、合計10社に採用された。これらの企業に、2008年末の段階で合計10万個を超えるチップ・セットを出荷した。いずれの製品分野でも、映像品質と伝送耐性の高さ、遅延時間の短さという、当社の「ビデオ・モデム・コンセプト」が認められた結果、採用に至ったと考えている。映像コンテンツを複数のディスプレイに送ったとしても、これらの特長はそのまま維持できることもアピールしたい。
EETJ これまで提供していた第1世代品と第2世代品との違いは。
Nissan-Cohen氏 違いは主に2つある。1つは、1080p形式のHD映像に対応したことだ。20MHz幅の通信チャネルを2系統、合計40MHz幅を利用することで最大3Gビット/秒のデータ伝送速度を得る。1080p形式を非圧縮で伝送可能だ。これまでの品種は、20MHz幅の1チャネルを利用しており、対応する映像形式は最大1080iだった。もう1つの違いは、静止画の表示画質を大幅に高めたことである。これまで、映像では画質は高かったものの静止画を連続して伝送した際の画質劣化が課題とされてきた。「SINC:Still Image Noise Cancellation」と呼ぶ技術を盛り込み映像処理のアルゴリズムを改善することで、静止画の画質向上を図った。改善したアルゴリズムはハードウエアに実装してある。
2つの改善点はいずれも、映像品質の向上につながるものだ。このほか、ほかの通信方式との干渉を避けるために利用する通信チャネルを動的に選択する「動的周波数選択(DFS)」や、携帯型電子機器に向けた低消費電力モードを用意したことも特長である。
第2世代品は2009年5月にサンプル出荷を始めた。もうすでに、採用の意思表明をしている企業があるほか、複数の企業が採用を検討している。顧客の要望にも依存するが、2009年8月には量産品の出荷を開始できるはずだ。最終製品としては、WHDI方式を採用した新たなコンセプトのパソコンが、2009年中に登場するだろう。WHDI方式を使ってディスプレイに映像を伝送し、インターネット接続には無線LANを使うものだ。
EETJ 今後の開発計画を教えてほしい。
Nissan-Cohen氏 例えば、4K×2K(4000×2000画素)のディスプレイに対応させるほか、携帯型電子機器に向けて消費電力の削減をさらに図るなど、複数の開発計画がある。
最も重要な計画は、WHDIと無線LAN(Wi-Fi)の連携である。具体的には、WHDI方式と「IEEE 802.11n」方式に1チップで対応した無線チップを製品化する*1)。WHDI対応無線チップの回路構成は、IEEE 802.11nに対応した品種と非常に似ている。RFフロントエンド部はほぼ同じだ。比較的容易に1チップ化できると考えている。インターネット接続には無線LAN、映像コンテンツの低遅延かつ非圧縮の無線伝送にはWHDI、という使い分けがさまざまな民生機器で活用できるだろう。
EETJ WHDI方式の普及促進を図る業界団体である「WHDI SIG」の活動について聞きたい。これまで複数の企業でWHDI規格の策定を進めてきた。規格の策定作業は終了したのか。
Nissan-Cohen氏 WHDI規格の第1版を2009年7月中に限定した企業(early adapterとadapter)に公開する。その後、1カ月〜2カ月の時間を掛けて第1版に対する意見をまとめ、最終的な規格を策定する予定だ。
EETJ 2008年10月の時点では、2008年内にWHDI規格の策定を終了すると説明していた。策定作業が遅れている理由は何か。
Nissan-Cohen氏 PHY層やMAC層については、当社(AMIMON社)のこれまでの技術を活用する。新たに策定を進めたAVC(Audio Video Control)層を規定するのがとても難しく、難航した。これが、策定作業が遅れた理由だ。
詳しく説明しよう。当社の方式は、1つの部屋内「In Room」でのHD映像の無線伝送ではなく、宅内のさまざまな部屋に映像を伝送する「Whole home」を志向している。狙うのは、1つの部屋内で機器間を接続しているケーブルの単純な無線化ではない。宅内全体での機器接続の無線化である。だからこそ、AVC層の策定が難しかった。宅内にある複数の機器のうち、希望する機器のみに映像を伝送させる仕組みを盛り込む必要があるのだ。われわれが想定している状況での機器制御は、現在のところどの企業も実現していない。
現在すでに、相互接続性を担保する認証試験の準備も進めている。認証試験を開始するのは、2009年第4四半期になるのではないか。当社が2009年5月にサンプル出荷を始めた第2世代品は、WHDI規格に対応した初の品種になる。WHDI規格そのものはまだ最終成立してはいないものの、ハードウエア回路は完全に規格に準拠している。WHDI規格対応のファームウエアは2009年第4四半期に提供する予定だ。
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