前回は、トランジスタには3つの接地方式があることを紹介しました。今回はそのうちの1つ「エミッタ接地回路」を取り上げます。
前回は、トランジスタには3つの接地方式があることを紹介しました。今回はそのうちの1つ「エミッタ接地回路」を取り上げます。微小な信号を増幅するのに使うエミッタ接地回路の基本的な設計手順について、詳しく説明しましょう。
図1にエミッタ接地を使った増幅回路を示しました。この増幅回路を使って、「10mV(ピーク・ツー・ピーク値、以下「pp」と記載)の入力電圧を、1Vppに増幅して出力する」ことを目標にします。
具体的に何を決める必要があるでしょうか。図1を見ると、負荷抵抗(コレクタ抵抗)Rcや、ベース端子に印加する電圧を決める抵抗R1とR2があります。まず、これらの抵抗値、すなわち回路定数を決める必要があります。さらに、トランジスタのバイアス(動作)点を決めなければなりません。バイアス点とは、トランジスタに信号を入力していないときのコレクタ電流(Ic)とコレクタ-エミッタ間電圧(Vce)です。トランジスタに信号を入力すると、バイアス点を中心にIcやVceが変化します*1)。
これらの値を決めるには、トランジスタの特性を示すグラフや数式はもちろん、設計者それぞれの経験やノウハウ、直感を駆使して作業を進めていきます。筆者は、エミッタ接地増幅回路の回路定数を決める際には、前回紹介した「トランジスタの電圧と電流が決まる手順」と逆の順番で作業を進めていくのがコツではないかと考えています。
つまり、(1)負荷抵抗(コレクタ抵抗)Rcの値を決め、次に(2)バイアス点を決めます。その後、(3)コレクタ電流Icの値を基にベース電流Ibの値を算出し、(4)ベース電圧(Vb)を決める抵抗R1とR2の値を決定する、という流れです。それでは、具体的な作業手順を、以上の4ステップに沿って説明します。
まず、負荷抵抗Rcの抵抗値を求めましょう*2)。電子回路は必ずその前後に別の回路を接続して使うので、設計した増幅回路の次段に何らかの回路が接続されたときに信号振幅が小さくならないように配慮しなくてはなりません。そのためには、次段の回路の入力インピーダンスに対して、Rcを小さくする必要があります。かといって、Rcを小さくし過ぎると、次段の回路が接続されなくても出力信号の振幅が小さくなってしまい、同じ振幅値を得ようとすると、トランジスタに流す電流が増えてしまいます。
そこでここでは、著者の経験を基に、後段に接続する回路の入力インピーダンスを10kΩと仮定して、負荷抵抗をこの1/100の100Ωに「えいやっ」と決めます。1/10では足りないけれど、1/1000にするほどでもないから1/100にしたとも言えます。
次にバイアス点のコレクタ電流(Ic)とコレクタ-エミッタ間電圧(Vce)を求めます。これが第2ステップです。このステップが4つのステップのうちで一番重要だと考えています。バイアス点を決めるには、まずVceとIcの関係を示したグラフ(Vce-Ic特性)上に「負荷直線」を引きます(図2)。
負荷直線とは、Vce-Ic特性上でVceが電源電圧(Vcc)となるX軸上の点(図2(a)では5.0V)と、「Ic=Vcc/Rc」となるY軸上の点(同50mA)をつないだ直線です(同黒い破線)。この負荷直線を引く作業は重要です。実際に稼動しているトランジスタを見ると、そのVceとIcは負荷直線上の値だけを取ることができ、両者の関係はこの直線で規定されるのです。直線の傾きは−1/Rcですので、負荷抵抗を変えることで傾きを調整できます。
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