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第6回 エミッタ接地回路の定数を決めるAnalog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/3 ページ)

» 2009年09月09日 00時00分 公開
[美齊津摂夫ディー・クルー・テクノロジーズ]

最も重要なバイアス点設定

 負荷直線を使って、実際にバイアス点を決める作業に入りましょう。1Vppの信号を出力することが目的でした。100Ωの負荷抵抗(Rc)で1Vppを出力するので、Icの変動幅はオームの法則から1Vpp/100Ω=10mAppとなります。そこで、図2(a)の負荷直線上の「どの部分を使って」、変動幅が10mAppのIcを流すか(つまり、バイアス点)を次のような手順で見付け出します。

 当初設定した目標では、入力は10mVppと定めました。この情報を使います。つまり、入力電圧の変動幅が10mVppのときに、変動幅が10mAppのIcが流れるように設定すればよいのです。このとき、図2(b)に示したベース-エミッタ間電圧(Vbe)とIcの関係(Vbe-Ic曲線)を活用します。

 図2(b)を見ると、Vbeが大きくなるにつれて傾きが大きくなっているのが分かります。この曲線上で、入力電圧の差が10mVのときに、Icの差が10mAとなる部分を探し出せば良いのです。この作業は、計算式を使って簡単に進められます。IcとVbeの関係式は以下になります。

 Isは飽和電流で、Vbeが0VのときのIc値となります。通常、10−10〜10−16と非常に小さい値です。また、上式の中括弧内の「−1」の項は無視できます。Vtは熱電圧で、27℃ではVt=26mV程度になります。ここで、熱電圧VtはKT/q[V]となり、Kはボルツマン定数(1.38×10−23[J/K])、qは素電荷(1.602×10−19[C])、Tは絶対温度[K]です。nは補正値で、一般に1〜2の値をとりますが、以降の計算では簡単のためn=1として進めます。

 この数式をVbeで微分すると、Vbe−Ic曲線の傾きが得られます。

 IcとVtから、Vbe-Ic曲線の傾きが決まることが分かります。(2)式中の熱電圧の影響は、トランジスタの内部で、エミッタにIcとVtで決まる抵抗Rvtが付いているとイメージすると分かりやすいかもしれません(図3)。ベースとエミッタの間には0.7V程度の固定電圧源が入っていると考えてください。そうすると、ベース電圧が10mVpp変化すると、エミッタ電圧もそのまま10mVpp変化します。この10mVppがRvtにかかるので、流れるエミッタ電流Ie=10mVpp/Rvtになります。Ie≒Icなので、図2(b)のグラフの傾斜は1/Rvtに相当し、Icを増やすと1/Rvtは大きくなります。

図3 図3  熱電圧の影響を抵抗で表現 熱電圧の影響は、トランジスタのエミッタの内側に熱電圧とコレクタ電流で決まる抵抗があると分かりやすいです。

 (2)式から、10mV幅で10mA幅の変化に必要なコレクタ電流Icは、Ic/Vt=10mA/10mVを解いて、Ic=26mAと計算できます。従って、Icのバイアス点は26mAで、これを中心にして±5mAを使えば、10mVppを入力したときに10mAppのコレクタ電流が得られます。そして、このときのバイアス点のコレクタ-エミッタ間電圧Vceは、図2(a)の負荷直線から2.4Vと求まり、これを中心に±0.5Vになることも分かります。この様子を図2(a)上に赤矢印で示しました。以上で、4段階の設計作業のうち2段階までを終えました。

ベース電圧決める最終段階

 続く第3ステップでは、コレクタ電流Icを基にベース電流Ibを算出します。前回説明したように、「Ic=電流増幅率β×Ib」の関係があります。βはトランジスタごとに決まる定数で、ここでは100と仮定しましょう。従って、Icが26mAであれば、Ibは260μAになります。

 最後の第4ステップでは、所望のベース電圧Vbとなるように、抵抗R1とR2の値を決めます。ここで注意しなければならないのは、260μAのベース電流による電圧降下の悪影響です。ベース電流が無ければ、R1とR2に流れる電流値は同じです。従って、電源電圧と2つの抵抗の比でベース電圧は決まります。しかし、ベース電流が流れると、R1に流れる電流の方がR2より増えて、抵抗比で決めた電圧よりベース電圧が下がります。これが電圧降下の悪影響です。

 このベース電流による電圧降下は、設計者それぞれの考えや経験で決めることが多いです。ここでは仮に「130mV」と決めます。電源電圧5Vに対して2.5%程度となり、許容できる誤差の範囲と言えるでしょう*3)。ベース電流による電圧降下を130mVとすると、ベース電流は260μAですので、抵抗成分は130mV/260μA=500Ωとなります。また、図2(b)からベース電流が260μA、すなわちコレクタ電流が26mAのときのベース-エミッタ間電圧Vbeは860mVと読み取ります。

*3) 設計する回路の目標仕様によっては、「2.5%なんて、とんでもなく大き過ぎる」ということもありますが、値を決めないことには先に進めないので仮に決めます。

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