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ワイヤレス給電の次なる課題、「電源ケーブルが消える日」はくるかワイヤレス給電技術 共鳴方式(2/6 ページ)

» 2010年05月13日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

第1部 共鳴型の宿題はまだ山積

 「共鳴(Resonance)」という興味深い現象を使ってワイヤレスで電力を供給する技術に、注目が集まっている。送電側デバイスと受電側デバイスが共鳴によって結合した「共鳴型ワイヤレス給電技術」には、2m程度離れた場所に50%に達するような高い伝送効率で電力を送れるという特長があるからだ*1)。従来の技術とは異なる大きな特長があるため、「夢の技術」と称されることもある。

 現在、国内外の複数の企業が実用化に向けた研究開発を進めており、共鳴型ワイヤレス給電技術についての技術セミナーも数多く開催されている。電気・電子分野の日本最大の学会である「電子情報通信学会」の通信ソサエティ部門では、共鳴型ワイヤレス給電技術を含む各種ワイヤレス給電技術についての研究会「無線電力電送(WPT)」を設置した*2)。2010年4月23日に東京都内で開催した第1回目の研究会では、発表件数は3件と少なかったものの、あらかじめ用意された席が足りず立ち見がでるほど多くの参加者が出席していた。

 また、電波利用のシステムやサービスの研究開発を推進する業界団体「ワイヤレスブロードバンドフォーラム」の作業部会では、ワイヤレス給電技術で利用する周波数帯や制度上の取り扱いをまとめた報告書の作成を進めている。「まずやるべきことを決めて、その後具体的な検討を進めていく」(作成に携わる関係者)という。

 このように盛り上がりを見せる共鳴型ワイヤレス給電技術について、2010年3月に仙台で開催された「電子情報通信学会 総合大会」では、国内の企業や大学が研究成果を数多く発表した。質疑応答の時間には、発表者と聴講者の間で、共鳴型ワイヤレス給電技術のとらえ方や課題について興味深い議論が交わされていた。

 2010年3月の総合大会での発表全体をふかんしてみると、あくまでも公開された範囲内ではあるものの、現在の開発状況の進展具合が見えてきた。実用化に向けては、乗り越えるべき課題がまだまだ数多く残されている。基本的な設計指針は確立しつつあるものの、実際の機器への実装を想定した検討はあまり進んでいないようだ。

*1. 共鳴とは、2つの物体が何らかの形で結合し、相互に強く影響し合っている状況を指す。電磁界の共鳴現象には、磁気結合した共鳴と、電界結合した共鳴の2つのタイプがあるが、ここでは広く研究開発が進められている磁気結合した共鳴に焦点を当てる。なお、「磁気共鳴型ワイヤレス給電」という表現が使われることもあるが、これはあまり適切ではない。「磁気共鳴(Magnetic Resonance)」という言葉は、磁性体の分野で別の意味を持った固有名詞だからだ。

*2. これまで「宇宙太陽発電時限研究専門委員会」として活動してきた。宇宙太陽発電を中心に据えつつ、拡大した応用分野へも適応することを目的として、「無線電力伝送時限研究専門委員会」に改称した。

共鳴ならではの開発課題

 共鳴現象を使ってワイヤレスで送電できること自体は、米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究グループが2007年に初めて実証した(図1)。マイクロ波帯の電磁波を使って電力を長距離送電したり、電磁誘導と呼ぶ現象を利用して数cm以下とわずかな距離離れた対象に電力を送ったりといったこれまでのワイヤレス給電技術に比べると、ごく最近に研究開発がスタートした技術だと言える。

図 図1 共鳴現象を利用したワイヤレス給電技術の実証実験  米Massachusetts Institute of Technology(MIT)が2006年に理論を発表し、2007年にその理論に基づいた試作機を作成して実証した。

 無線通信技術の発展は著しく、さまざまな種類の電子機器が無線でデータをやりとりできるようになった。例えば、デジタル・テレビにおいては、ハイビジョン映像を圧縮せずに、無線で伝送することもここ数年で可能になった。

 このような状況の中、現在はケーブルで供給している電力を無線で供給できれば、電子機器は完全に「ケーブル・フリー」となる。デジタル家電の置き場所やデザインの自由度は高まり、携帯型電子機器ではもはや充電作業を意識することは無くなるだろう。多数のACアダプタを管理する必要もなくなる。ひんぱんに無線で充電できる環境が整えば、携帯型電子機器の内蔵2次電池の電池容量を減らせる可能性もある。

図 図2 実用化に向けた現在の開発状況の概略  最終機器が世の中に登場するまでの開発段階を、(1)基本的な設計指針の確立、(2)実際の機器への実装(システム設計)手法の確立、(3)制度上の取り扱いの明確化という3つに分けた。現在の開発状況の進展具合は、「基本的な設計手法」はほぼ確立してきており、1つ目の山は越した。2つ目の山である「最終機器への実装手法」については、検討が始まったばかりの段階と言える。

 しかし、実用化までの道のりは険しそうだ。共鳴現象を使うことに起因したさまざまな技術課題があることが分かってきた(図2)。最終機器が世の中に登場するまでの開発段階を仮に、(1)基本的な設計手法の確立、(2)実際の機器への実装(システム設計)手法の確立、(3)各種制度の整備という3つに分ける。現在の開発状況の進展具合は、基本的な設計手法はほぼはっきりしてきたものの、最終機器への実装手法については検討が始まったばかりだと言える。

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