次に、送電側デバイスに対して受電側デバイスの「設置自由度」を高めたワイヤレス給電システムを設計する必要がある。ここでは、結合係数kの変化が問題となる。
上述の設置自由度には2つの意味がある。1つは、送電側デバイスに対する受電側デバイスの向き(相対位置)の自由度。もう1つは、伝送距離の自由度である。設置の自由度が高ければ、それだけ利用者の使い勝手は高まることになる。
ところが、設置の自由度を高めるのはそう簡単ではない。相対位置や伝送距離が変わると当初設定した最適な条件が崩れてしまい、伝送効率が大幅に低下してしまう。結合係数kが変わることで、コイル間の相互インダクタンスが変化する。これに伴って、共振周波数が変化してしまうからだ。設置の自由度を高めるための研究は始まっているものの、まだ基礎的な段階にとどまっているようだ。
設定した最適な条件を維持するためには、いくつかの方法がある。電源周波数を変えるほか、相互インダクタンスの変化を相殺するようにコイル部分のインダクタンスまたはキャパシタンスを調整したり、図3においてスパイラル・コイルとループ・コイルの距離を調整したりといった方法がある。
2010年3月の総合大会では、最適な条件を維持するための手法について、具体的な議論は無かった。第2部で紹介するように、伝送距離を伸ばすために、「第3のコイル(リピータ・デバイス)」を使う試みもあるが、実力は未知数である。
このほか、最終製品として共鳴型ワイヤレス給電システムを製品化するには、複数の受電デバイスに対して給電する仕組みや、狙った機器にのみ送電する仕組みを盛り込む必要がある。電源回路も重要だ。送電側の高周波電源部のパワー・アンプの高効率化や、受電側で電力を受け取った後に高周波電力を直流に変換し、所望の電圧に変換するブロックの高効率化も進める必要がある。
図2にある(3)のワイヤレス給電システムの制度上の取り扱いについても、確定していない部分がほとんどのようだ。
2010年3月の学会に参加した複数の関係者は、「電波法上の取り扱いがはっきりしていないのが、最も大きな課題」と指摘した。共鳴型ワイヤレス給電システムでは、受電側の情報を送電側に送るための制御信号を、送受電間でやりとりすることになりそうだ。仮に、制御信号のやりとりに使う周波数と、電力の伝送に使う周波数が同じならば「無線機」という取り扱いになり、周波数を確保する必要がある。ところが、「周波数の確保に向けた議論はまだ始まっていない」(複数の関係者)という。
利用する周波数について、2010年3月の総合大会の発表では、10MHz前後を使うケースが多かった。共鳴型ワイヤレス給電技術を初めて実証したMITがこの周波数帯を使っていたというだけではなく、実際の機器に組み込むことを想定したときに、送電側/受電側コイルの寸法と想定した伝送距離のバランスがとりやすい周波数帯のようだ。
ただ、10MHz帯付近では、RFID(Radio Frequency Identification)機器が13.56MHzを利用しており、これらの機器への干渉を防ぐ必要がある。ほかの機器へ干渉しないことをどのように保証するか、現時点では議論は進んでいないようだ。大電力を送電する機器や、比較的長い距離を送電する機器では、人体への防護指針もはっきりさせる必要がある。さらに、共鳴型ワイヤレス給電システムの普及を促すには、技術仕様の標準化も進める必要があるだろう。
特集第2部では、2010年3月に開催された電子情報通信学会 総合大会で公開された共鳴型ワイヤレス給電技術に関する発表の中から、技術進展の観点で特に興味深かったもの2つを中心に紹介する。
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