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Googleのクラウド指向を具現化する「Chromebook」、成否はハードウェアが握る製品解剖

Googleの「Chrome OS」を搭載するノートPC「Chromebook」の第1段が6月15日に米国などで発売された。Samsung Electronicsの「Series 5」を分解したところ、同社ならではの部品調達戦略が見えてきた。

» 2011年06月28日 07時00分 公開
[Dylan McGrath,EE Times Japan]

 全てのアプリケーションとサービスをWebベースで提供する新しいタイプのコンピュータ「Chromebook」が登場した。Samsung Electronicsが製造し、2011年6月15日に米国などで発売された「Series 5」と、Acerの「Cromia AC761」だ*1)

 市場調査会社である米IHS iSuppliの分解リポートによると、Samsung Electronicsが製造したSeries 5の部品コスト(BOM)は332.12米ドルで、ハードウェア構成はノートPCでよく見られる一般的なものだという。IntelやInfineon Technologies、Standard Microsystems(SMSC)、Texas Instrumentsなどの半導体メーカーからチップの供給を受けている。

図1 Samsung Electronics製Chromebook「Series 5」の主要モジュールである。出典:IHS iSuppli

 Googleは、2011年5月10〜11日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催した開発者向けイベント「Google I/O」で、同社の「Chrome OS」を搭載した「Chromebook」をSamsung ElectronicsとAcerの両メーカーが2011年6月に発売すると発表していた。Chromebookは、ネットブックやローエンドのノートPCに対抗する、新しいタイプのシンクライアントネットワークコンピュータだ。IHS iSuppliのリポートによると、Chromebookのコンピュータとしての機能やネットワーク接続性は、低価格ノートPCや3G対応ネットブックと同等だという。

 同分解リポートの分析では、Samsung Electronicsが発売したSeries 5は、フル機能のノートPCで一般的なハードウェア仕様を備える。すなわち、12.1インチ型の高品位液晶ディスプレイや、8.5時間の駆動時間を確保するバッテリー、Intelの新型デュアルコアAtomプロセッサ、2Gバイトのメモリ、16GバイトのSSD(Solid State Drive)を搭載する。

 IHS iSuppliの分解リポートによると、Series 5の製造コストは344.32米ドルだという。内訳は、BOMが332.12米ドル、組み立てコストが12.20米ドルである。これに対し、小売価格は約500米ドルに設定されている*2)

*1)Googleは、2010年12月7日に開発リファレンス用のChromebook「Cr-48」を発表し、約6万台のテスト機を製造している。

*2)Wi-Fiと3Gが利用できるモデルが499.99米ドル、Wi-Fiモデルが429.99米ドル。

Googleの理念を具現化

 IHS iSuppliで競合分析担当シニアアナリストを務めるウェイン・ラム(Wayne Lam)氏は、「Series 5は、『ノートPC』と呼ばれてこそいないが、あらゆる点から見てフルサイズのノートPCだといえる」と述べている。「Chromebookは、検索エンジン大手のGoogleが掲げるWebセントリックの理念を具現化した最初のPCである。スタンドアロンPCから、クラウドネットワークとクラウドストレージへとユーザーを誘い出すものだ」(同氏)。

 同氏は次のように分析する。「Googleは(クラウドをフル活用することで)、ユーザーの目の前にあるハードウェアの役割をなるべく小さくしようとしている。しかし、実際にはハードウェアこそがChromebookを特徴付けているのであり、Chromebookが新しいプラットフォームとして成功するかどうかもハードウェアに掛かっている」。

 IHS iSuppliによれば、Chromebookは8秒以内で起動し、面倒な設定をしなくてもWi-Fiや3Gを介してインターネットに接続でき、データは全てクラウドに保存する。しかしChromebookは、「素晴らしいユーザー体験を提供することを重視したため、低価格ノートPCでは通常見られないような先進的なハードウェア仕様を備えている」(同氏)という。

垂直統合の強みで差別化

 同社の分解リポートによると、Samsung Electronicsは一部の部品についてはコスト削減を選択する一方、液晶ディスプレイやバッテリーパック、筺体にはコストを掛けている。これは、垂直統合型の事業構造を採るSamsung Electronicsならではの戦略だという。すなわち、メモリやバッテリー、液晶ディスプレイなどの部品を自社グループ内で調達することで、ある程度のコストを削減できる。IHS iSuppliは、Samsung Electronicsのこの垂直統合型アプローチは、AcerのChromebookとの差別化にもつながっていると指摘している。

ALTALT 左図は、マザーボードの表面。メインメモリや組み込みコントローラ、セキュリティチップ、クロック生成ICなどが実装されている。右図はマザーボードの裏面。表面と同様にメインメモリが実装されている他、メインプロセッサとチップセットや、オーディオコーデックICなどが搭載されている。出典:IHS iSuppli

 Series 5を構成するモジュールのうち、最も高価なのはマザーボードであり、BOMの26%に相当する86.37米ドルだという。マザーボードに搭載されている部品の中で最もコストが掛かっているのが2Gバイトのメインメモリだ。Samsung Electronicsが自社供給するDDR3 SDRAMを採用している。

 マザーボード上の部品で特徴的なのは、Intelのデュアルコアプロセッサ「Atom N570」とInfineon Technologiesのセキュリティチップ(TPM:Trusted Platform Module)だ。TPMは主に企業向けのPCに搭載される部品であって、低価格帯のPCにはあまり採用されていない。

 12.1インチ型液晶ディスプレイもSamsung Electronicsの内製品である。LEDバックライトを備え、300cd/m2の輝度を確保している。画素数は1280×800画素で、アスペクト比は16対10だ。コストは58米ドルと予想され、BOMの17.5%を占める。

 Samsung Electronicsは、ユーザーの使い勝手を高めるために、6セルの角型バッテリーパックをChromebookに搭載した。バッテリーによる駆動時間は8.5時間である。このバッテリーパックがChromebookの体積の約2/3を占める。端子間電圧が7.4Vで容量が8280mAhのポリマー状のリチウムイオン二次電池を採用した。製造はSamsung SDIだ。コストは48.20米ドルと推定され、BOMの14.5%を占める。

 4番目にコストが高いモジュールは、3G対応ワイヤレスWAN(WWAN)モジュールだ。台湾Hon Hai Precision Technologyが製造を担当する。クアッドバンドのEDGE/GPRS/GSMとクアッドバンドのHSPA/UTMS、デュアルバンドのCDMAに対応した。このモジュールに搭載されているベースバンドチップはQualcommの旧型品「Gobi 2000」であり、Samsung Electronicsはこれをコストの低減を狙って選択したようだ。この3G対応WWANモジュールのコストは42.85米ドルで、BOMの12.9%を占める。

 IHS iSuppliは今回の分解リポートの報道発表資料の中で、Series 5に搭載されていた部品の詳細なリストも公開している(当該プレスリリース(英文)へのリンク当該部品リスト(PNG形式の画像ファイル)へのリンク)。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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