大型の機器を効率良く冷却するにはどうすればよいのか。これは組み込み機器、産業機器、IT機器などさまざまな分野にまたがる重要な課題だ。富士通は約100台のサーバを格納したコンテナデータセンターで、新しい「解」を探り当てた。
IT分野ではデータセンターに対する需要が高まり続けている*1)。さまざまな機器がITを使って結び付き始めており、処理対象となるデータの量が増えていることが原因だ。例えば、自動車であれば車載センサーが取得したデータをデータセンターに集め、解析後にカーナビなどにリアルタイムに戻すといった使われ方が始まっている。そのデータセンターにはさまざまな規模のものがある。特にコンテナデータセンターのニーズが高まっている。設備の増設や移動がたやすい他、大型のデータセンターと比較して設置に必要な条件が少なく、低コストかつ短期間で構築できるためだ。
*1) ミック経済研究所が2011年7月に公開した予測によれば、国内のデータセンターの市場規模は年率6.7%増で推移し、消費電力量は2015年に100億kWhを超えるという(公開資料)。
データセンターに要求されているのは高い処理能力と低い消費電力だ。特にデータ処理以外に使う電力(空調用の電力)を極力引き下げることが不可欠である。低消費電力で効率的に冷却できる手法が必要だ。
データセンターの冷却では、室温をエアコンで一定に保ち、サーバ筐体が内蔵する小口径のファンで排熱する取り組みが一般的である。複数のサーバをまたいで空気の流れを作り出す手法も広く使われている。この手法が広く使われているということは、最も冷却効率が高いと言うことなのだろうか。そうではない。
富士通研究所は、さまざまな冷却手法のうち、外気を利用したものが優れており、特にサーバとファンを分離したときに、最も効果的であることを見い出した。富士通研究所の方式は外気温度が高い夏季に効果的であり、従来型のデータセンターと比べて総消費電力を約40%削減できたという*2)。
*2) 2011年10月に研究所内へコンテナデータセンターを設置し、2012年4月まで実証した結果である。外気温度が高い条件を再現するために、ビニールハウスのような機材も利用した。
2012年4月5日に富士通研究所が開催した報道機関とアナリスト向けの展示説明会では、屋外に設置した試作コンテナサーバ(図1)を前に、冷却手法と実証データを示した。
図2に示した実証データでは、3種類の冷却方式を比較している。データセンター内の気温をエアコンで調整する「伝統的な」場合を基準とする。内蔵ファンを備えたサーバを外気で冷却する従来の外気冷却方式と、富士通研究所の方式の効果を調べた。
まず夏季の条件(外気温度35℃)の場合、外気冷却では基準と比較してほとんど消費電力を削減できていない。これは、内蔵ファンの回転数が上がり、消費電力が従来のエアコンよりも多くなってしまっているからだ。
富士通研究所の方式では、内蔵ファンの消費電力はゼロであり、外気を導入する空調ファンの消費電力も低い。消費電力は基準と比較して41.3%減、従来の外気冷却と比べても39.7%下がっている。
冬季の条件(外気温度13℃)でも基準と比較して36.8%減、従来の外気冷却と比べて19.0%の消費電力引き下げを達成した。
富士通研究所は、PUE(Power Usage Effectiveness)*3)の改善ではなく、総消費電力の低減をうたっている。なぜだろうか。「CPUなどの消費電力が大きい旧式のサーバを導入すると、それだけでPUEの値が改善できてしまう。データセンターが目指しているのはPUEの改善ではなく、総消費電力の低減である」(富士通研究所ITシステム研究所サーバテクノロジ研究部で部長を務める堀江健志氏)。なお、同社の省電力システムでは、PUEも改善されている(図3)。「年間のPUEの値は1.05である」(堀江氏)。
*3) PUEは、データセンターの省電力化を推進する米国の業界団体The Green Gridが定義した指標。PUE=データセンターの総消費電力/IT機器の総定格消費電力=(サーバ消費電力+施設消費電力)/サーバ消費電力
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.