控えめに言っても、DRAM業界は浮き沈みを繰り返してきた。「事業を合理的に多様化できた企業は、そうでない企業よりも強い」――。エルピーダは、これを痛感してきたはずだ。NAND型フラッシュメモリ(以下、NANDフラッシュ)に加え、モバイル機器やサーバ向けDRAM、民生用DRAMなど、より利益率の高い製品の製造に切り替えたり、メモリ以外の製品を製造するためのファウンドリサービスも提供したりと、事業の多様化に向けて取り組んできたメーカーは、いずれも成功を収めている。
エルピーダの最も魅力ある資産(安く買収できる限り)は、ウエハー生産能力とモバイルDRAM技術、そして顧客基盤だ。エルピーダを獲得したDRAMメーカーは、Samsung Electronicsに匹敵するほどの市場シェアを得ることになる。
米国の市場調査会社であるSemico Researchは、Micronがエルピーダを獲得するのが賢明な手だとしている。Micronには、DRAM業界で数々の買収や共同事業を手掛けてきた実績がある他、多額の現金持ち高(キャッシュポジション)があるため、この取引には絶好の位置にいると言える。Micronはエルピーダの獲得を通じて、モバイルDRAM市場でのシェアを拡大できる。同市場は、市場規模としては小さいものの、現在急速に成長している。
Micronがエルピーダを買収すると、DRAM市場にどのような影響を与えるのだろうか? 同市場では現在、Samsungがシェア26%で首位にあり、その後に、MicronとNanya TechnologyのジョイントベンチャーであるInotera(13%)、エルピーダ(12%)、Micron(10%)が続く。台湾のPowerchip Technology CorporationとエルピーダのジョイントベンチャーであるRexchipのシェアをエルピーダに加え、InoteraのシェアをMicronに加えるとすると、エルピーダ/Micronは、38%のシェアを有することになる。
つまり、現在トップに立つSamsungとのシェアに12%もの差をつけて、世界最大のDRAMメーカーが誕生することになるのだ。また、それぞれの顧客基盤を活用すれば、安定した価格で製品を提供できる。また、このようなライバル企業が現れることで、台湾のDRAMメーカーの間では統合や合弁への意欲がさらに高まるかもしれない。最終的には、DRAM市場には一握りのプレーヤしか存在しないという状況にもなり得る。
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