まず、「メタマテリアル」とは何なのかを解説しよう。NECの独自構造のアンテナの全体像を理解するには、メタマテリアルについて知っておく必要があるからだ。
メタマテリアルとは、自然界の材料そのものとは異なる特性を人工的に生み出した構造体(媒質)のことである。こう書くと仰々しく分かりにくいが、「蟻の目」では木に見え、「鳥の目」では森に見えるような構造体と書くとイメージしやすいかもしれない。球状の金属材料(金属球)を例に挙げよう。金属は電気を通す「導電性」を有するというのが一般的な認識だろう。確かに、電磁波の波長をλとしたとき、金属球の寸法が波長λのスケールより大きいとき、金属球は導電性という材料固有の特性を示す。
ところが、電磁波の波長λに対して十分に小さい金属球を周期的に並べると、材料固有の導電性という特性は薄れ、金属の形状や配列で決まる新たな特性、金属球の例では直流電流は通さない「誘電性」が表れてくる。まるで、蟻の目では茶色の木々が、鳥の目で見ると緑色の森にがらりと変わる、そんな雰囲気だ。
まとめると、電磁波の波長λより十分に小さい周期的な構造を作り込むことで、その材料が持っていない特性を引き出そうというのがメタマテリアルのコンセプトである。こうして生み出した周期構造を、自然界にはない人工的な媒体という意味でメタマテリアルと呼ぶ。さまざまな興味深い振る舞いをする構造体(媒質)を人工的に生み出せるという期待があり、2000年以前から研究開発が進められてきた。
当初は、ある共振周波数を有する素子を周期的に並べた構造の「共振型」と呼ばれる方式の研究が中心だったが、この構造はメタマテリアルとして動作する周波数範囲が狭く、損失が大きいという課題があった。米UCLA (University of California, Los Angeles)の教授である伊藤龍男氏の研究グループが2002年に、共振型に比べて周波数帯域が広く、損失を抑えられる「伝送線路型(CRLH:Composite Right/Left-Handed)」と呼ぶ方式を提案したことで、メタマテリアルの研究の流れが、マイクロ波帯の高周波回路の領域に広がってきた(関連記事)。NECの「メタマテリアル応用アンテナ」も、このような研究開発の流れの中で生まれたものである。
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